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2003年8月号
written by 来素果森

どうしようか?松井2+阪神のこと

 去年の7月号の当コラム「どうしようか?松井」から引用してみる

 筆者が松井に対して不満であり、これでメジャーでやっていけるんだろうか、又はメジャーへ行く意味があるんだろうかと考えてしまうのは、古くは前横浜のストッパーエース佐々木、去年までは前ヤクルトの石井一といた本格派に一方的にひねられ(中略)国内の高いレベルの投手に敵わないバッターがメジャーの本当の一流の球を打てると思いますか?という事である。逆説的めくが、ある程度の数字を残す事は可能だろうとは思う。(中略)ローテーションの4〜5番手ぐらいの投手はチームによっては日本のプロ野球界ではせいぜい敗戦処理くらいの力しかないピッチャーがつとめているところもある。こういう相手からヒットをひろっていけば、そんなに格好悪い数字にはならないだろう(中略)6番か7番くらいの打順で2割8〜9分、本塁打25本くらいの”そこそこの松井”を見ても、おそらく我々は楽しくないのではないだろうか。

 いわゆるチョウチン持ちライターのアオリ記事とは違う、冷静かつ客観的な視点で書いたつもりだったが、残念ながら現在の松井の置かれている状況はよりシビアなものになってしまった。もちろん、野球とベースボールの違いもあるので一概には言えないとはいえ、二番を打つ松井はあまり見たくない。しかし、6月2日現在で二割五分、ホームラン三本では仕方がないのだろう。このままではスタメンすら危うい。あまり試合消化数が違わない日本のプロ野球で6月2日現在比較的近い数字を残しているのは日ハムの金子であるが、守備力や小技や脚力に特に見るべきところがあるわけでない松井がこの数字ではヤンキースのファンがブーイングを浴びせるのは当然だろう。

 もちろん、現在は調子を落としすぎで、もう少し数字的にはもりかえすと思う。しかしながら、多少手きびしい言い方になるが松井は野茂やイチローや佐々木とは違う。この3人は、それぞれ「日本のプロ野球界で誰も出来なかった事」をやった、いわば時代を越えたスーパースターである。松井は、時代を代表する選手であった事は間違いないが、そこまでの選手ではない。この差は決して小さくない。そこを知ってか知らずか無視してあおるスポーツマスコミもどうかと思うが、少なくともここの読者はその前提をおさえた上で”松井秀喜「個人」のメジャーへの挑戦”を楽しむ事をおすすめしたい。前の3人の”日本のプロ野球のメジャーへの挑戦”とは質が違うのだ。

 日本のプロ野球の話題にもどる。何と言っても注目されているのは、阪神のペナントレース独走だろう。6月の上旬に10ゲームも2位の巨人に差をつけるような展開を誰が想像しただろうか。勝つ時はこんなものかとも思われるが、運も味方している。当初ストッパー予定だったポートが不調もウィリアムスが立派に役目を果たし、エース井川も明らかに出来がよくないもののそれでもハーラートップに並び、浜中・片岡・藤本といったあたりが故障しても代役が全く見劣りしない活躍をする…と打つ手がことごとく当たっている。勝利をより磐石にしているセットアッパーの安藤にしても、開幕時は6番目の先発投手の座争いで藤田太陽に敗れ二軍スタートで、ポートの不調や金沢の故障で上がってきた投手。ペナントレースを戦いながら、勝ちパターンをつくりあげていくのはさすがにベテラン監督のワザである。去年は4・5月は突っ走りながらも6月に失速、結局4位で終わったが今年はそのような事はなさそうだ。というのは、阪神の戦い方が勝ちに貪欲でありながら先の展開を見据えた戦い方をしているからである。たとえば5/27〜5/29の対横浜、5/30〜6/1の対巨人六連戦。藤田の故障で先発の頭数が足りなくなり(その前は藤川が失敗してファーム落ち)、横浜戦のどこかで下で順調に調整を進めていた川尻が来るだろう、と予想していたのだが、案に相違して6人目の先発に指名されたのはルーキーの久保田だった。ストッパーのウィリアムスが逆転サヨナラ本塁打を打たれ勝ち星こそつかなかったものの、六イニング一点におさえたそのピッチングは本人の自信と経験になっただろうし、22才藤川・23才藤田・24才金沢といった若い投手たちに何より刺激となっただろう。また、星野監督が”岩瀬二世”と期待する同じくルーキーの中村泰を、安定した仕事をしていた柴田を外してまで一軍ベンチに入れておいたのもやはり先を考え、少しでも一軍の雰囲気に慣らすためだったと思われる。この中村、最近の若いピッチャーでは珍しいくらいあがり症で、素晴らしいスライダーを持っていながらマウンドに上がると満足にストライクも入らない。現状では、大勝か大敗している試合の終盤しか投げさせられないが、今のうちからマウンドに慣れさせておこうという事だと思う。そしておそらく本当の正念場になるであろう夏〜秋にこれらの戦力を活用できたら、という腹づもりのはずである。

 言うまでもなく優勢と勝利は似て非なるもの…というのは何のセリフだったか。巨人のようにブッチギリの戦力があるところの独走ならいざ知らず、阪神の独走はまだまだペナントレースにおける勝利ではなく、優勢でしかない。優勢、にメリットがあるとしたらそれは決して余裕、ましてや楽に戦える事ではなく、唯一「先の事を考えながら戦える」事だけである。その意味で星野監督が勝利を積めば積むほど試合のプロセスを大事にし、勝った試合であってもバントの失敗などがあったりするときわめて不機嫌なのも当然である。この試合は勝ったが、こんなことが出来ないのでは先の、苦しい状況に陥った時にどうなる事か、というのが監督の怒りの源泉である。5月31日の対巨人戦、あの9回表に11点とって逆転勝利した試合であるが、試合後の星野監督はとりつく島がないような不機嫌ぶりだった。9回裏無死一・二塁で赤星のバントが小フライになった事が気にいらないのである。結果は巨人の一塁手、福井が落球して無死満塁になり後の大量得点につながったのだが、それはあくまでたまたまの結果論。プレーの後、両軍ベンチをカメラがとらえたが、星野監督の激怒ぶりはまるで自チームが落球したかのようであった。

 ひとつだけ心配なのは、グラウンド上の選手が意識過剰になり、プレー以上に監督の顔色を気にしながら戦うようになること。どうも最近のバントミスの多発はそういった面がなきにしもあらずである。ベンチを意識しすぎてはいけない。あくまでグラウンドで意識すべきは敵なのだから。まあ、星野監督もそれなりの手は打ってくると思う。

 中日が川上と朝倉、ヤクルトが藤田と岩村といった主力中の主力を欠く現在、やはり追うチームは巨人だろう。しかしながらこのチームの今期の戦い方は正直理解しかねる。今回は詳しくとりあげるスペースがないので次回にまわすが、前回も書いたようにそれでも二位なのだから総合力はやっぱりニチーム分、といっても決して過言ではない。それでは。    (この項終わり)

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