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2000年7月号
written by 相田智久

やっぱり最後の希望か? アイドル系CD久々の佳作登場
 月刊誌のタイムラグで仕方無いのだが、これが載る頃には村田洋子の失跡問題は解決しているだろうか。執筆時点では、事務所側が失跡否定コメントを出す等、根の深さと混乱が窺われる。『桃の天然水』CMに出演、演技力もあるだけにこのままフェードアウトするのは惜しい。アイドルの失跡と言えば、87年の小沢なつきの一件がある。彼女の場合、NECのCMが放送中であったし、主演ドラマ『ちゅうかなぱいぱい』も予定変更し、番組を終了。小沢以外のキャストを残し、別シリーズを立ち上げた。

 その後ヘアヌード写真集を何冊か出版したが、結局本格的な芸能界復帰とはならなかった経緯がある。村田に関しての結論はまだ出ていないが、どうも事態は長引きそうなムードなのだ。

 さて今月取り上げるCDは、前田亜季の『だいじょうぶ』。ソロとしてセカンドシングルに当たり、アニメ『BOYS BE…』のオープニング曲である。『BOYS…』は漫画を始めとして多方面のメディアで展開。舞台化もされており、前述の村田洋子も出演する予定であった。(キャンセルされた)。内容的には何処か懐かしさを感じさせるストレートぶりには、所謂(いわゆる)「臭さ」が感じる向きもあり、好き嫌いが別れる方だろう。

 曲を聴いてみよう。こちらも負けずにド真中の直球勝負。明るい曲調で、体がこそばゆくなるような「セーシュン」ポップスに仕上がっていた。苦しさがあっても明日への希望を忘れない、という歌詞世界は、肯定的なアニメのイメージにぴったり。クライアントの発注通りと言えよう。

 曲のあまりの「正しさ」に恥ずかしくなるかも知れない。またカップリングに歌われる牧歌的青春群像は、もうこの世の何処にも残っていないかも知れない。思えば我々は80年代のポストモダンかぶれ(笑)からこっち、ヒネた物創りに慣れ過ぎたのではないか。確かに本作のような世界を現実と言っては無理があるが、かと言って全国の中高生が、一人残らずシャブ中で犯罪者、という訳でもあるまい。昨今、王道の物創りが陳腐に見えた時期はあったが。が、それを避け続けた結果、批判されにくいけど、作品が小粒になる傾向もあったと思う。

 前田のボーカル。デビュー時に感じた「意外な程しっかりした感触」が、本物であった事が分る。細かいしゃべり声とは別物の安定した発声。声量は豊かとまでいかないが、スリムなボディから想像するレベルより上で、リスナーの予想を裏切る。そして本作、サビにちょっと難所がある。文節を区切るようにし、軽くシャウトする要領で、フォルテの発声が要求されるのだ。この部分を崩せずに歌い切ってしまった。彼女のキャリアから考えても立派である。

 それにより力強さの表現に成功した。「力強さ」。名実ともに「妹」であり、守ってあげたいイメージで活動して来た。線の細い美少女性がクローズアップもされて来た。そんな彼女にとり、かなり縁遠いキーワードだと思う。以前からのファンには驚きでもあろう。

 彼女のリアルな成長。自我が芽生える中学生期に、それとシンクロする内容の本作がリリースされた。上手い企画である。なお、歌唱力は確実にアップしている。デビュー曲では素直さがポイント、薬師丸ひろ子方式・合唱団チックな唱法であったが、今回の曲でポップスのボーカルへと踏み出した。

 アレンジは初夏のイメージとでも言おうか、爽やかさを前面にプッシュ。タイトル曲でピアノ、カップリングでバイオリン、ギターとアコースティックの楽器を効果的に使い、洗いざらしの、ざっくりした音に仕立てている。生バンドで聴いた時に格好いいタイプだ。ちなみに両曲とも間奏は長めに取ってある。もしコンサートが実現した場合、この間奏でステージの端から端、手を振りながらの移動が可能になるだろう。

 当CDはカップリングの『みんながいい』も統一されたコンセプトで制作されており、二曲で一つの作品とみてもいい。『みんな…』でも恋愛ではなく、セーシュンの一コマ(恥ず!)を屈託なく歌う。押える点は「みんな」という複数形の使用だ。「わたし」個人の強い色を決定するには、少し早い年齢。そんな前田が今歌う曲の主語に「みんな」を持って来る。(タイトル曲では「私たち」を使用)。

 アニメが群像劇だから、と言ってしまえばそれまでえだが、現在の彼女に良くマッチした曲でもあるのも事実だろう。

 録音については、素直で素性の良いもの。エネルギーバランスは高域寄りだが、ベースの低音が体に響く程度に収録されている。生ギターの粒立ちも、シャリ感を持ち爽快だ。ただ無印良品タイプの音の為、アンプのエージングにビビットに反応する。前記評価はアンプの電源を入れ、一時間程度緩めた後のヒアリング結果である。どんなステレオでもスイッチオン直後は、ボケた眠い音がするものだ。当CDはそういった音の変化が正直に聴き取れた。その点に注意すれば『みんな…』では、南欧調の明るく湿度の低いバイオリンが楽しめる。

 最後に前田のルックス面について触れたい。本当の子供時代を過ぎ、彼女は第二形態に変化した。子役出身者は、成長に伴いルックスのバランスを崩してしまう事が多い。しかし前田が信じられないくらい、そのままバランスを保ち、ファン好みの幼さも残しつつ年を経ている。まるで人工的に作られた生命体、ホムンクルスのようだ。

 所で筆者の好きなゲーム『カルドセプト』の中で、ホムンクルスは三回戦闘に勝ち抜くと、火の精霊の王フレイムロードという、強大なクリーチャーに変身する。彼女も次はどんなタイプに変わるのか、楽しみである。戦闘には勝ってくれよ(笑)。

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