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2007年10月号
written by 来素果森

選手会の法廷闘争はどうあるべきか?

  2〜3年…いや、もう少し前かな。4〜5年前には、ビデオデッキやDVD/HDDプレーヤーには、「プロ野球中継が延長されても、そのあとの番組の予約録画が失敗しない」機能が必須だった。また、プロ野球ファンとそうでない人の「中継の延長の是非」に対する論争も激しかった。

 なつかしいなあ。もう、そういう論争は成り立たないだろうね。来年はおそらく、日テレも一部の試合を除いては、巨人戦の中継はしなくなるのではないだろうか。

 8月になって、日テレ以外の民放キー局は事実上地上波での巨人戦中継を取り止めた。優勝争いが絡んだ試合が今後出て来るとまた違うのだろうが、各民放キー局のHPでチェックする限りにおいては、8月6日現在放映が確定しているのは、9月6日のナゴヤドームの中日-巨人戦をテレビ東京が中継するだけ。8月だけで見ると巨人戦の中継は8試合で、そのうち7試合が日テレ。あとひとつはTBS。すさまじい減少振りである。

 関西の人気球団、阪神はサンテレビやABC朝日、テレビ大阪、読売テレビなどが27試合中25試合を中継(8/24と8/26のナゴヤドームでの中日戦のみ地上波なし)しているのと比較すると差がよくわかる。まあ、あの球団は特別だが(笑)。

 別にからかうつもりでもなんでもないが、読売も今年の視聴率が苦戦する事は予想がついていただろうから、MXテレビと早めに交渉(売り込み)をしておくべきだったと思う。もっとも、実は筆者は「ローカリズム」の時代を見越して、いち早く『東京ヤクルトスワローズ』になったヤクルトがなぜそれをしなかったのかが不思議でしょうがないのだが。

 いずれにしても、ゴールデンタイムに10%に届かないコンテンツを2時間近く放送するわけにはいかないだろう。正念場である。

 一方、遅々として進まない球界の改革にシビレを切らせたか、プロ野球選手会は7月20日の選手会臨時大会で「FA権取得年数の短縮」「FA選手獲得球団に対する補償金の撤廃」がなされなければ訴訟を起こす考えを表明した。この主張だけ聞くと読売が大喜びしそうな内容であるが、はたして終着駅が同じかどうかははなはだ疑問である。以前は吉田前会長の私案であるが、サラリーキャップ制度の導入を提案していたくらいで、カネが全ての球界になったらファンから見捨てられるであろうことはよくわかっていると思う。FA制度の改定も含めて、どのような改革案を出して来るのだろうか。

 ちなみにサラリーキャップ制とは簡単に言ってしまえば「全球団に共通の年俸総額の上限を設定する」制度である。これによって金持ち球団だけが有力な選手をかき集めてペナントレースの興をそぐ事を防ごうとするものだ。当然ながら全体的に年俸は抑制気味になる。メジャーリーグではこの制度の導入に選手側が反対しストライキになったくらいである。それを、日本では選手側が提案している。

 言いかえれば、日本のプロ野球界は選手側がこのような提案をしなければならないほど歪んでいるのだ。本来だったら誰が自分達に不利になる事をわざわざ主張するだろう。その意味では選手会の認識はしっかりしていると思う。
 
 しかしながら、仮に「FA選手獲得球団に対する補償金の撤廃」のかわりに「ドラフト指名権の譲渡」を獲得球団に課すると、国内でのFA移籍はかなり困難になる。選手会も当然ながらわかっているはずだ。

 結局、逆説的というか、「日本のプロ野球はどうなるのが理想であるか」という視点から考えていくしかあるまい。というか、それしか出来ないだろう。いわゆる”経営者側及びプロ野球機構”にはこの視点が決定的に欠けていた。否、性格に言えば「巨人という王者に、他の11球団が挑む」というはなはだ歪んだ思想で日本のプロ野球は運営されていた。そしてそれが全く通用しなくなった今、それにかわるべき理想をさがしあぐねている、というのが実情だろう。選手会側が主導権を取ろうとするのならば、何よりもまず「あるべきかたち」を提示するべきであろう。

 「巨人が常に王者である」ために、今のFA制度やドラフト制度はつくられた。それに代わって例えば仮にだが「12球団が平等の立場で優勝を争う」ためのFA制度やドラフト制度をつくろうとするならば、それはどうするべきなのか。自分たちの本来の要求との兼ね合いを考えるときわめて難しい。また、各選手の思惑もそれぞれだと思う。一刻も早くメジャーへ行きたい選手にとっては、経営者側の一部が考えている。”FA権取得の場合でも、国内の他チームへの移籍とメジャーへの移籍の年限に差をつける(国内5年・メジャー7年のような)”は承服し難いだろうが、一部の球団は「日本のプロ野球のため」という大義名分の元に強硬に主張してくるかもしれない。

 この場合、どう判断するべきか。結局のところ、先にあげた自分たちが考える「あるべきかたち」に加え、相手が何を考えているのかを見抜く能力が必要になる。真に日本のプロ野球界全体を考えた提案ならば涙を飲んで受け入れざるを得ないこともあるだろうが、一部の球団のエゴが隠されているのであればこれを見抜き、きっちりと反論した上で無視してもいいだろう。ヤクルトの古田兼任監督や楽天の野村監督のような「読む力」が必要にある。選手会も大変だと思うが、是非頑張ってもらわなければなるまい。

 いまや諸悪の根源と言っても差し支えないであろう読売は、ドラフトでまた「指名候補選手の希望が反映される制度を」などと早くも新しいクリーンな理念への反旗をひるがえしている。度し難い馬鹿である。希望球団に入れない有望選手がメジャーに流出する…が唯一の理屈づけらしいが、実際にはまず有り得ない。日本で修行してFAしてメジャーへ、という賞金のルートがあるのに、環境も良くなく身分も収入も不安定な米のマイナーを経てメジャーを目指す、という悪路を誰が選ぶだろうか。

 もちろん、将来に渡って100%ゼロ、全くいないだろうと言うのではない。しかしながら仮に『ハンカチ王子』がそうしたとしても(実際は有り得ないと思うが)、ウラ金を存在させないクリーンな環境づくりと、12球団がなるべく対等な立場での競い合いのほうがはるかに大事である。クリーンな環境づくりとは単なるお題目ではなく、以前横浜がいみじくも告白したように、球団経営を圧迫するほど使わざるを得なかったウラ金を、正当な使用の方向へ変えられるだけでも大きい。絶対に時計の針を戻してはいけない。

 またまた不愉快なニュースが入って来た。8/6に開かれたプロ野球実行委員会で、読売は来年の交流戦の更なる削減を主張した。今シーズンと来シーズンの交流戦24試合はすでに正式決定されている事であり、当然ながら誰にも相手にされなかった。
  
 読売の主張の理由が笑える「来年は北京五輪が開催されるので、交流戦を減らさないと過密日程になる」。

 あのー、今年と来年の交流戦の試合数を決めた時…去年の暮れだったか今年の頭だったか…って、北京五輪ってまだ決定してなかったんでしたっけ?(笑)。

 なぜこんな馬鹿げた事を言い出したか。AP通信によると8/3に読売はニューヨークでMLB機構と打ち合わせをし、来シーズンのメジャーリーグ開幕戦の東京ドームでの開催を申し込んでいる。そしてそれはまた過去2回と同じく「パ・リーグ開幕の3/20からセ・リーグ開幕の3/28の間、つまりパ・リーグの公式戦と重なる時期」である事が確実視されている。

 簡単に言ってしまえば、読売が儲けたいがためにセ・リーグの開幕を遅らせ、スケジュールが苦しいから交流戦を減らせ、と。さらに過去2回、パの公式戦の開催中に行うという非常識さ、無礼さをあれほど各方面から糾弾されたにもかかわらず押し通そうとする傲慢さ。
 
 正式決定ではないのでこれ以上の論評はしないが、この球団はもう除名してもいいんじゃないかな。             (この項終わり)

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