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2006年6月号
written by 来素果森

どうして読売の開幕三連戦は史上最低の視聴率だったか?

 WBCは、結果として日本には最高の結果となった。優勝、という結果もさることながら、米国審判の「誤審」というよりも「不正」としか言いようがないような、例のタッチアップ騒動による敗戦により、一度は誰もがあきらめかけた決勝リーグ進出を奇跡的に成し遂げてのV…。イノウエタケヒコが脚本を書いていてもこうはいかないんじゃないか(笑)というドラマティックな展開である。しかも、決勝の日が3月21日(現地時間では3月20日)祝日午前11時から。”野球見てから近場に遊びにいくか”と考える人にはベストで、まるで日本のために組まれたスケジュールのよう。TVの視聴率の43.4%という数字は去年の紅白を抜き、サッカーのワールドカップと肩を並べる数字。「野球」というスポーツが、まだまだ捨てたものではない、という事が「一応」証明できただけでも、十分意味があった。

 もちろん、これをもって真の世界一とは誰も思っていないだろうし、筆者がわざわざ触れるまでもなく、問題点は山ほどある。しかし、今回はその問題点を取り上げるのではなく、初のWBC、及びペナントレース序盤の流れを見ながら、これからの日本のプロ野球のあり方を考えていきたいと思う。

 まず、WBCの余韻が、どのくらい残ったのか。パ・リーグの開幕戦、北と南の開幕シリーズの地元での視聴率を見てみよう。記事は、それぞれ日刊スポーツの地方版からである。まずは、北。

 [日本ハム視聴率も絶好調] 日本ハムの本拠地開幕2連勝で、お茶の間も熱狂した。STVが生中継した26日楽天戦の札幌地区平均視聴率が、日本ハム戦では過去2番目の18.4%を記録(中略)過去最高の平均視聴率は、04年10月プレーオフ第1ステージ第3戦(対西武)の22.3%で、26日の生中継はレギュラーシーズンでは最高だった(中略)開幕戦だった25日も、センバツ高校野球の旭川実業と重なったが、2ケタの10.3%を維持。HTBのレギュラーシーズン生中継では3番目の高視聴率で「在宅率が低い中で、高校野球と重なったことを考えると合格点の数字」と分析していた。
10.3%が3番目、というのもある意味驚きだが、まあ、その地方に”根付く”のは時間がかかるものである。そして、いきなりのこの数字は、そこにWBCの影響を認めないわけにはいくまい。

 一方、南はどうか。

 [ソフトバンク、史上最高の開幕戦視聴率] WBC効果は、とどまるところを知らない。25日のパ・リーグ開幕戦ソフトバンク対ロッテを中継したKBC九州朝日放送の視聴率が、ホークス開幕戦では最高の平均17.3%だったことが27日、分かった。97・00・05年の13.9%を大きく更新する数字に同局編成部では「好天の土曜は視聴率が伸びないものですが、今回はWBCで活躍した選手が多いロッテとの対戦も、注目度を上げたのでしょう」と見ている。また、26日の2戦目を中継したFBS福岡放送も平均14.8%で、同局の05年ソフトバンク・デーゲーム中継の平均12.3%を上回った。

 北も南の絶好調である。ついでながらで申し訳ないが、関東・インボイスドームで行われた西武-オリックス開幕戦を筆者は観戦に出かけた。月並な言葉で申し訳ないが、たしかに盛り上がっていた。筆者がインボイスドームで感じた熱気としては一番、と言っても過言ではなかった。もちろん”印象”ではるが。

 3つの球場の観客動員数合計が記録的なものであったことかも”効果”は明らかだろう。

  ところが、こんな流れから取り残されたチームがある。そう。言わずとしれた読売である。4月3日の共同通信から。

 [巨人開幕視聴率は15.9% 2番目の低さ]3月31日に開幕したプロ野球セ・リーグの巨人-横浜を中継した日本テレビの平均視聴率は、午後7時以降で15.9%(関東地区)だったことが3日、ビデオリサーチの調べでわかった。開幕日の巨人戦ナイターとしては、集計のある1972年以降、去年の13.5%に次ぐ2番目の低さ。他地区の平均視聴率は、関西地区が同時間帯で巨人戦が8.0%と低かった一方、ヤクルト-阪神戦が17.3%、名古屋地区は、巨人戦が午後6時以降で8.5%、地元の中日-広島は午後6時以降で8.5%、地元の中日-広島は午後6時55分以降で17.3%だった。広島地区は巨人戦が午後7時以降で9.5%。

 先に開幕したパ・リーグの開幕戦の状況を見て、久々の20%越えを期待したいた読売グループの、驚愕と落胆は大きかったようであるが、筆者にとっては意外でもなんでもなかった。「知性も教養もないがカネだけは持っている田舎のオッサンが、コンセプトも何もなく中途半端な二流の美術品を買い漁ってご満悦」。現在の読売のイメージは、正直こんなところである。ピカソやゴッホやルノアールの二級〜三級作品が、その画家の名前だけでデタラメに集められた美術館に行く人間は、正直その知性にふさわしい者だけだろう。

 ついでながらに言うと、開幕三連戦のトータルの平均視聴率は、読売が二勝一敗と勝ち越したにもかかわらず、史上最低だった。何ともきびしい結果、と言わざを得ない。

 しかしながら、今回注目すべきは関東での視聴率ではない。関西や名古屋や広島での視聴率である。開幕戦なのに、二ケタにすらとどかない視聴率…。はっきり言って、地方局は本音ではもう読売戦のTV中継(地元球団と対戦する時をのぞく)はやめたくてしょうがない。しかし、キー局の意向と圧力に逆らえなくて流しているだけである。ペナントレースの展開次第だが、このままだと5〜6%に落ち込むだろう。末期的である。

 これは、単なる読売に対する愛想づかしの結果ではない。野球の国際化にともなう、必然的な帰結なのである。日本のプロ野球が、事実上鎖国状態にあった時は、まあ、読売なり西武なりが王者の座にいて、他のチームが「打倒!○○」というカタチも有り得た。しかし、開国〜WBCもさる事ながら、多くの選手のメジャーへの移籍が大きな要因である事は言うまでもない〜すれば、国内の王者の座、というものは以前よりも価値、というより意味を失う。必然的に、求められるものは「個」のチームの相対的な強さではなく、「日本全体の」プロ野球が、世界の中でどの位置にあるか、が重要になるのだ。

 そういった流れを考えれば、もはや日本では今後「全国区」のチームは出現しない事が理解していただけると思う。東京以外の地域のほうが、視聴率の落ち込みが著しい理由もこれで明らかだと思う。決して野球人気が落ちているわけではない。ただ、グローバル化が進むことによってローカリズムが芽生えてきているのだ(ヤクルトが、チーム名に「東京」を入れたのは、この流れを察知したからだろう)。

 以下次号だが、これは妄想とも暴論ともとられかねない空想をひとつ。WBCにおいて、韓国はチームの主軸をメジャーリーガーで固めて来た。というか、主力選手ほとんどメジャーリーガーだった。

 日本は逆に、非メジャーリーガー、国内の選手でチームを固めたらどうだったろうか。
 (この項続く)

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