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2005年1月号
written by 来素果森

たぶん小久保や井口の場合はこうだったんではないかな?

 神はわれわれのこっけいな姿を楽しまれるためにこの世をつくられた。(13世紀のトルバドゥール、ヴィンセント=レランボーの言葉)

  思わずこんな出だしにしてしまうほど、様々な茶番劇が同時進行して日本シリーズの事にすら詳しく語る余地がない。しかし、そのひとことで済まされるものでは当然ないとは言え、西武・伊東監督の強運ぶりにはおそれいる。石井貴は去年、今年とペナントレースでは各一勝しかあげられず、ローテーションの谷間で先発したダイエーとのプレーオフ第二ステージ第一線でも、四回と1/3で九安打五失点でノックアウトされ、とてもそれ以降戦力になるとは思えなかった。ところが第二ステージ最終戦、まさかと思われた守護神・豊田が打ち込まれて同点に追いつかれ、それまで緊迫した試合だっただけに有力な投手は使い果たしていて(逆に言えば石井貴は僅差のリード、という切迫した展開で起用されなかったのだ)、いわば”仕方なく”マウンドに送った石井貴が一気に蘇り、その試合はおろか日本シリーズの第一戦・七戦で完璧な投球をみせてMVPに輝く…などと誰が想像出来ただろう。シーズン一ケタ勝利の投手がシリーズMVPを獲得するのは史上初だそうだが、一ケタどころか二年間一勝ずつである。別の石井貴がいたとしか考えられない。

 正直筆者は、五試合勝負の第二ステージは西武が、七試合勝負の日本シリーズは中日が有利と読んでいた。しかしここまで神がかり的な活躍をする選手が出て来ては、ヘタな予想などふっとんでしまう。石井貴様々の日本シリーズだったと言えるだろう。

 もちろん、第二ステージ最終戦での投球をみて、シリーズの軸に指名した伊東監督の決断にも敬意を表するが。

 さて、それ以外のネタとしてはロクでもない話ばかりだが、どれも今後のプロ野球を考えていく上で外せない事なので要点だけ触れていく。まず、楽天のパリーグ参入問題。巷で語られたり週刊誌で報じられているように、ライブドアつぶしのために読売をはじめとした一部球団の談合で”あらかじめ結論ありき”の決定だった、という可能性が高い。一リーグ制へのシナリオを崩したライブドアに対する拒否反応・嫌悪感から、何とか楽天へ…という流れは、いわゆるアダルトサイト問題、のあたりからミエミエだった。バカバカしい限りである。たとえば、ダイエーを買収しようとしているのがソフトバンクではなくソフトオンデマンドだったら問題あるかも知れないが(笑)、18禁サイトにリンクしている、くらいの理由でマイナス評価されたらたまったものではない。そんな事が理由になるんだったら、ヤクルトに出資しているフジサンケイグループのネット新聞「pink.zakzak.co.jp」は何?。リンクどころか自ら18禁やっているではないか。

 誤解されると困るが、筆者はその事自体を問題にしている訳ではない。ただ、そんな低レベルの難クセをつけてまでライブドアを排除しようという、プロ野球機構の卑しい心根がたまらない。

 またはこの前まで球界の盟主を気取っていた某マスコミを母体とした球団だってそうである。やはり自らが発行しているスポーツ新聞にはソープやら出会い系やらの広告が満載で、もちろんメアドも載っている。それとも、スポーツ報知は読売グループとは無縁な新聞なんだろうか。いいかげんにしてもらいたいものである。

 そこまでして排除したライブドアに、企業ぐるみの犯罪…といっても実際に犯行にかかわったのは堤オーナーをはじめとしたごくわずかの上層部だと思うが…で企業自体の存続すらあやうくなった西武が、売却を打診しているのだから情けない。この裏切りには他のオーナーたちも口アングリだろう。盗っ人にも三分の理、ではないが悪人にも悪人内での仁義みたいなものはあるはずである。特に読売は、ライブドア外しのために週刊誌などで笑われながらもなりふり構わず楽天にはたらきかけ、やっとそれに成功したと思った直後のこの西武の行為だけにショックも大きいと思われるが、直前のオーナー会議での参入チーム決定時に「どちらの熱意も素晴らしく甲乙つけがたかった」てな、心にもないおためごかしのコメントをオーナー名で発表したばかりだったのでこの西武の動きに表立っては何も言えず、ノーコメントで押し通さざるを得なかったのは何とも気の毒だった。

 オリックスも同じである。そもそも、近鉄をライブドアが買収したい、と言い出しさえしなければ”近鉄の危機を救った救世主”になれるはずだった。それが一転して”火事場ドロボー”になってしまった訳だからライブドアに対する怨念はすさまじい。楽天の参入が決まった時、一応他チームのオーナーが社交辞令とは言え「気持ちとしては両方とも入って欲しいが」(ヤクルト・堀オーナー)「甲乙つけがたかった」(近鉄・小林オーナー代理)などとライブドアに対しても気をつかっていたのに対し、吐き捨てるように「相対比較した場合(両者の差が)かなりはっきり出ていたんじゃないか」(オリックス・宮内オーナー)と大人げないコメントを出していた(笑)。ところが裏ですでに西武は、10月の中旬くらいからライブドアに売却を申し出ていたわけである。西武に対する怒りは尋常ではないだろう。

 しかしながらオリックスに対して同情したい気もあまり起きない。ここ数年のオリックスの球団経営のやる気のなさは、その成績が証明しているように、目に余るものがあった。そこへ出て来た近鉄の身売り。今やパを代表する投手になりつつある岩隈をはじめとして有望な若手が多いこのチームは、はっきり言ってお買い得である。飛び付くのもわかるし、五チームになればいずれもう一組の合併が出て一リーグ制へ…という思惑も当然あったろう。そういう裏があまりに見え過ぎていた。それは、日本のプロ野球全体の進歩や発展とは全く関係ない、単にオリックスの収支の帳尻あわせに過ぎない。結局、そのために楽天はきわめて不幸なスタートを切らざるを得なくなった。分配ドラフトで獲得した投手の今季の一群勝利数は25勝。今後の補強にかかってくるとは言え、あまりにもきびしい陣営である。オリックスが火事場ドロボー呼ばわりされても仕方ないだろう。

 一応断っておくが、筆者は楽天よりもライブドアを積極的に推したい訳ではない。チーフアドバイザーに、プロ野球に対する浅い知識と造詣しかなく、ピエロとしか称しようのないテリー伊藤氏をあてたのは悪い冗談としか思えない。彼のプロ野球に対する発言などをしっかり吟味したのだろうか。他に、まともなアドバイスが出来る人材はいくらでもいると思うのだが。「どこに眼をつけとるんじゃ!」

 このニュースを知った時には思わずそう思った。

 それでもなお、地元の圧倒的な支持や情熱・行動力を考えあわせ、更に、楽天の立候補の不自然・不透明さを考えるとライブドアでよかったのではないかと思う。という事は一応表明しておこう。

 あとは駆け足になるがダイエーの井口の自由契約による流出の問題。強制わいせつで送検された前オーナー代行が結んだ「不可解で不明朗な契約(自分が退任した場合は、自由契約になる選択権は井口にある)」による結果である、と報道されているが、去年の小久保の時に輪をかけたデタラメな話である。なんじゃそりゃ、というのがダイエーファンを含めた人々の感想ではないだろうか。異常にもほどがある。

 実は筆者は、これは入団時にすでに密約があったのではないかと考えている。FA資格を得る前に移籍を容認する、みたいな。小久保にしても井口にしても当時巨人等と激しく獲得を競った選手であり(バックナンバー参照)、そういう密約が決め手になったのではないかと。それがメジャーなのか国内の他球団なのかはともかくとして。しかしながら、この事実を公表すれば、チーム(ダイエー)・選手(小久保・井口)共に傷がつく。野球協約上、あきらかな違法行為だからだ。そして結局、このような決着になったのではないだろうか。もちろん推測なのだが。

 いわゆるドラフトの裏金問題も、ほとんど解明されていない。車代や食事代と称する百万単位の金額ではない、億単位の本当の意味での裏金の事はどうなったんだろうか。某カラオケ屋さんの某有力左腕が某マスコミチームに入団内定したが、この選手は車代や食事代は一切もらっていないのだろうか(笑)。億単位のほうも。

 今の日本のプロ野球界は、日は暮れかかってるのに道は遠いと思うよ。 

                          (この項続く)

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