<バックナンバー一覧>

2003年3月号
written by 来素果森

ぼいす・おぶ・わんだーらんど

 おくればせながら明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 さて、両リーグの主砲と言ってよい、巨人の松井と近鉄の中村のFA騒動は、どちらもあまり後味のよくないかたちで決着がついた。ヤンキースっと相思相愛で、あっさり決まるかと思われた松井がなかなか決まらなかったのは、ヤンキースが持ち出した「3年間の契約期間終了後、日本のプロ野球球団としか契約できないものとする」という奇妙キテレツな条項のためである。FA制度の主旨とは全く関係なく、松井はおろかヤンキースにとってもマイナスでしかないこの条項はどこから出て来たのか、誰の差し金なのか…。考える事すらばかばかしい。ばかばかしいついでに言うならば、読売の(あ、言っちゃった)この案を考えた人は、こんな馬鹿げた条項を松井が受け入れると思ったのだろうか。当然ながら松井は激怒、一時はヤンキースにもそうとう不信感を持ち、それが”メジャーで自分に興味を持ってくれるチームとは全て交渉します”という態度につながった。もともと駆け引きするタイプでない松井にとて、この展開は極めて不本意だったと思われる。結局このばかげた条項を引っ込めたヤンキース入りが決定したのだが、まあ、唯一今回のドタバタで松井が得たメリットは、彼が日本で所属していた球団は、ドラフト問題などでは選手の人権、などと思ってもいない事を声高に主張するが、いざ自分のチームの不利益につながるような事態(要するに、読売の選手がFAで流出すること)になると汚い裏工作でフリーエージェントの権利をレンタル移籍にすりかえようとする球団である、という事をあらためて自分自身で確認した、という事だけだろう。

 それにしても、もともとシーズンはじめには”メジャーに行ったら非国民だ”なんて事を言っていたオーナーがいる球団だけに、まあなんらかの手は打ってくるだろうとは思ってはいた。そしてそれは、今までの経験からしてきっとまた頭のよくない方法なんだろうなぁ(オリンピック参加問題にしても、対メジャー問題にしても、某オーナー率いるこの球団は全てといっていいほどに対応に失敗しているのは、今までこのコラムで指摘してきた通り)とも思ってはいた。しかし正直、ここまで頭の悪い対応をして来るとは予想していなかった。松井は日本シリーズ終了後わずか一日でメジャー行きを表明した事からもわかるように、おそらくシーズンが始まる前から心は決まっていたと思う。原監督の説得なども、儀礼的につき合ってはいたものの、まあ、心が動く事はなかったろう。メッツの不手際、というか行き違いがあったものの、最終的には梨田監督の説得が土壇場逆転の決め手となった中村とは対称的である。メジャーへ行きたい、という確固たる信念があり、しかも自由な身分で堂々とヤンキースへ行きたい、と思っていたはずだ。その意味では読売とヤンキーすの業務提携などという動きは個人的には迷惑だったと思う。読売が敷いたレールにのって、コントロールされたカタチでヤンキースに行く、という構図は松井の美学にもっとも反する事であるし、世間的にももの笑いのタネにしかならない事である。それだけはイヤだ、というのが松井の本音だったろう。もちろん、一選手の立場で業務提携についてどうのこうのは言えない。しかし、少なくとも自分はそれとは全く無関係にフリーな立場になり、ヤンキースへ行きたい、と考えていたと思う。もともと、日本では松井の意中の球団は阪神で、ドラフトで意に反して巨人に入った訳だから、今度は…という思いはより強かっただろう。そういう気持ちをこれほど逆撫でする条項はないだろう。

「それではFAの意味がない。未来を縛られるのは、納得がいかない」

関係者によると、松井は怒りをこめて、そう反発したという。「その条項をはずせないなら、メッツを選ぶ」(12月30日朝日新聞朝刊より)

 当然の反応である。が、読売はこれがわからなかったのだろうか。たとえば将来において、メジャーというステージでやりたい事はやり尽くした松井が、自分の自由な意志で日本のプロ野球界に帰ろう、と考える事はあるかもしれない。一生骨をうずめよう、という考えかもしれない。どちらにしても決めるのは松井である。なんで三年後に日本に帰る、なんて事を強制される条項に合意するだろう。ねぇ。

 筆者はこのニュースを知った時、(読売の)この頭の悪さの質は、どこかで味わった事があるなぁ…とぼんやり思ったのだが、思い出した。VOWである。「○月×日の△△のコンサートチケット、2階15列目の僕のチケットと、1階1〜3列目のあなたのチケット交換しませんか」というどっかの雑誌の投稿らんのお便りをVOWが引用して「こんな交換に応じる奴いねーよ」と笑っていたのだが、今回読売がやった事のセンスはこれに近い。そう、読売のえらいひとのレベルは、VOWでネタにされる人のレベルと同じなのだ。

 そこに至るまでの過程を想像するとなお哀しい。読売がこの条項を、ヤンキースが松井に対して呈示する条件の中に入れてもらうには(なにしろヤンキースにもデメリットしかない)、どれだけの犠牲を払ったのか。裏金かもしれないし、別のものかも知れない。いずれにしてもきわめて大きな投資をした事は間違いない。何故そんな事をするか、と言えば結局これは読売の、メジャーへの選手流出に対しての対抗策なのである。松井が筆頭であったが、おそらく今後においても巨人の選手のメジャー流出も止まらない流れだろう。何とかそれをくい止めるための、システムとしての巨人選手のFAの空洞化を狙ったのが、今回のレンタル移籍まがいの条項だった。上原や高橋由など、間違いなくメジャーへ行くであろう選手のケースも想定した上での業務提携であり、この条項であった、という事を理解しないと今回のドタバタの本質は理解出来ない。

 時々週刊誌(特に現代とプレイボーイが熱心なようだが)などが"FAとドラフトで巨人ウハウハ”みたいな記事を特集するが、数年前まではおろかにも読売はそう思っていたようだが、今は全く違う。ここに来て自分たちが行ってきた強欲なやり方は、実は死へとつながる道だった、と今更ながら気がついて、いつ責任の押しつけ合いがはじまるか、といった状況である。低下する一方の観客動員や視聴率。去年は新監督効果とVでほんのわずかダウンのスピードが落ちたものの、松井が抜けて新監督効果もうすれる今年は、ペナントレースの展開次第では夏すぎに視聴率一ケタになるのではないか、とささやかれる状況で頭をかかえているのが現状なのだ。貧すりゃ鈍するとはよく言ったもので、とうとうこんなばかげた行動に走るようになってしまった。

 以下次号、および事情が許せば当誌のホームページで番外編を発表する場合もあるのでその場合は来月号の当欄で発表します。最後に、ネットリサーチのマクロミルの「日本のプロ野球は以前に比べて面白くなったか?」というアンケート結果を。

面白くなった-19.9%

面白くなくなった-56.2%

面白くなくなった理由のトップ「特定のチームだけが強いから」

 ま、やはり。                                (以下次号)

▲バックナンバー一覧へ
▲トップページへ