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1997年2月号
written by 来素果森

落合騒動を考えてみる


 『巨人のフロントのやり方は不愉快だ。落合解雇を決めてから、清原と話をするなら分かる。今回はそれが逆だった。落合ほどのトッププレイヤーに対して、石を持って追うようなやり方は品位に欠け、体質が露呈した感じだ。落合選手には今後、三冠王を取るくらい大活躍してほしい』(96年11月29日・産経新聞)

 誰あろう、熱狂的巨人ファンであることで有名な黒鉄ヒロシ氏の、落合が巨人を退団した次の日の新聞に載ったコメントである。まあ、今更というわけではないが、今回のドタバタ騒ぎを見てそれでも新オーナー様を含めた読売巨人軍フロントの品性の下劣さに気がつかない人がいるのだとしたら、その人は人間としてダメであると言われても仕方ないだろう。落合がプロ野球界の宝であり、また今回のペナント奪取における功労者であることは誰もが認めるところ。その彼を”清原が来るかもしれない。そしたらクビにしよう。しかし来なかった場合の事も考えて今はほっとこう”という事で契約更改の予定の有無すら告げずに放置しておくなんてことは常識的には考えられない。人を人とも思わないというか、ただの商品としか見ていないからこういった仕打ちが出来るのだろう。もちろん、力無き者は去れの世界であるから、実績を残せなかった者は紙切れ一枚でバイバイ…になっても仕方がない。それが掟でもある。しかし、落合ほどの選手に対してはそれなりの処遇があってしかるべきである。例えば年俸3億7000万にくらべて打率301、本塁打21本、打点86の成績では物足りないから解雇する、という選択肢があってもそれは当然よいのだが、そうならそうで清原が決まるまで店晒しにするのではなく先に『来シーズンの契約は結ばない』という事を告げるのが礼儀というものだろう。「あいつ(清原)は12月31日までに返事をすればいいんだろ。どっちにしても清原待ちか…。そこまで待たせるのは失礼な話だよ。オレがいらないなら10月の時点でクビを切ればいいんだ」という落合の怒りは当然である。筆者も実のところ、読売巨人軍のフロントの方々の人間性はかぶと虫に劣るとも勝らない素晴らしい方々であるという事は重々承知していたつもりだったが、それでもまだまだ理解不足であった事を痛感した。野球評論家の看板を降ろしたい位である。それにしても何でこんな最低の行動を読売巨人軍フロントは選択したのか。実は前述した理由に加えて清原を安く買いたたくために落合をダシにしたという側面も見逃してはならない。清原が強い巨人志向を持っているのは読売フロントは当然知っていた。今オフにFA宣言するのは確実、という情報をキャッチしてからは品川球団社長が「清原?来たいというなら仕方がない」などという発言をワザと流したりして、表向きは”積極的には獲りに行かない”というポーズをとった。その実は、最後にはなりふり構わずに獲りに行った事からもわかるように違ったのだが。そうすると、落合を先にやめさせられるワケはない。それでは清原に本当は落合をクビにしてでも来て欲しいんだとバレてしまうから。まとめると、読売巨人のフロントの狙いは(1)落合はとりあえずほっといて清原に”ウチには落合もいるし特にどうしても君に来て欲しいわけではないが、来たいなら来て落合から盗める部分は盗んで(清原が落合をバットマンとして尊敬し、手本にしてるのは有名)ポジションを狙ってくれたまえ”と説明しよう。そうすれば清原は元々ウチ(巨人)志向が強いし、最近ドロ沼のスランプに落ち込んでいる状態なので、落合と一緒に野球が出来るというのは魅力だろう。それならば比較的安い年俸でもOKするだろう。(2)そうやって清原を入団させてしまったら落合はクビを切ろう。しめしめ。──うがった見方とする人もいるかもしれないが、実は仔細に今回のドタバタの要所要所をつなぎあわせるとこれ以外に解釈のしようがなくなる。阪神との争いになった時、清原の巨人志向を過大評価して第1回交渉時に低いレベルの条件提示をし(11/13)、後に阪神が高いレベルの提示をしたのを聞きそれに清原が心動かされたのを見てあわてて条件をつりあげに出た点といい──普通そういうみっともない事はあまりしない。後に落合をヤクルトと日本ハムが争った時、後から交渉したハムが複数年等の有利な条件を提示したが、ヤクルトは最初の提示を変えなかったように──、読売巨人軍深谷代表が清原との交渉の11/14深夜やっと落合に来季の契約の話をした点といい(清原に交渉時に突っ込まれたのだろう。結果として大ウソだったが)、清原入団確定後の長嶋監督と落合の会談は、長嶋は引きとめにまるで熱意がなく、あっというまに自由契約が決まり、記者会見でも一回も目を合わせる事もなく、それどころか長嶋の「一塁手2人はいらないですから」という正直といえばあまりに正直に読売の心境をあらわすような発言がとびだしてきた点といい、どれをとっても”落合は最初から清原を買い叩くためのダシ、もしくは万が一の時の安全弁”という見方を補強するものばかりである。こういう計画であった事は間違いないだろう。しかし、立案者が誰かは知らないが、そいつは下劣な人間であるだけではなく馬鹿でもある。こんな計画が成功するわけはない。落合が黙っているわけがないからである。そういう仕打ちを受けている事を知った落合は、マスコミに不満をどんどん喋り出した。なるほどひどい話なので、一部のマスコミ(Y新聞・H新聞〜スポーツ紙です・Nテレビ等)をのぞくほとんど全てのマスコミが大々的に報道しだしたのは周知の通り。まあ、黒鉄氏のみならず世間の人々にも読売巨人の本質を知ってもらうよい機会ではあった。もしかしたら清原がプロ野球界に残したもっとも大きな功績になるかもしれない。彼がFA権を行使しなければ今回のドタバタ劇は起こらなかったであろうから。

 と言うわけで、次回から毎年恒例ともなったシーズンオフの集中連載「日本のプロ野球をダメにするFA制度とドラフト」に入るのだが、今年は少し趣向を変えて読者からの意見を募集してみようと思う。このコラムを去年の3月号以降から読み出した人に少し説明するが、当コラムでは現在のいびつなドラフトとFA制度がある下劣な人間が運営する球団のゴリ押しで導入されていらい、一貫してこれを批判してきた。逆指名、という理念的(本来ドラフトというものは各チームの戦力均衡化にある)にも現実的にも論外のシステムは改正されるべきだし、人的補償がないに等しいFAもこのままではどうしようもない。両制度とも大幅に改正されるべきである----と言うのが当コラムの立場であり、それに立脚した論を展開してきた。毎年やっているのは、これがそれだけ大事な大きな問題だからである。で、今年だが、ちょっとこのことに対しての意見を広く一般から募ってみたい。FAとドラフトはどうするべきか。文章量は規定しないので自由に書いて欲しい。優秀な論には1ページ丸ごと掲載させてもらうし、その場合は規定の原稿料をお支払いさせていただく。短いものは文中で論を進めながら紹介する。何か記念になるものを送ろうと思っているが、こちらは思案中である。どの文章の場合でも文意を損なわない範囲で手直しする事があるのであらかじめご了承を。編集部「まっとう〜」あてに1月27日消印有効で。では。         (終)

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