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1994年10月号
written by 来素果森

激闘ペナントレース、パ・リーグの巻

 月刊誌の悲しさで、この号が出るころにはもう状況は大きく変わっているだろうとは思うもののどうしても語らずにはいられないパ・リーグのペナントレース。この原稿を執筆している8/25現在、1ゲーム差の中に上位4球団がひしめきあうという漫画でもこうはいかない展開は、白けきっているセ・リーグのペナントレース(僅差で5チームがせりあってるのになぜだろうか・笑)と対照的で、スポーツライターを名乗ってる以上はこの混戦を制するのはどのチームかを当てたい、論を立てて証明したいという欲望がおさえ切れない。そこで、タイミングを外すおそれは承知の上でズバリ優勝チームを占ってみたい。

 少なくとも今現在、いわゆるスポーツマスコミで圧倒的に支持されているのは西武である。西武有利を唱える人々の口から異口同音に語られるのが”去年こそ破れたものの、何度も日本シリーズを経験し勝ち抜いている事からもわかるようなここ一番の勝負強さ”と”それを発揮できるチームとしての高い完成度”であり、ゆえにせり合いから抜けだすのは西武だ、という事なのだが筆者はこの見方には賛成できない。それは2チームが競う時のものだからである。日本シリーズにおいても明らかなように、西武は最終的に頭ひとつ抜け出す事を目標とした戦略で戦いを進める。決して4連勝を狙うのではなく、3敗しても4勝する事を目指すチームである。その戦い方においては確かに西武はズバ抜けている。ここ数年近鉄(去年は日ハムだったが)が激しいデッドヒートを繰りひろげながら結局は西武の軍門に下っていたのはこの「相手を見ながらの戦い」に破れたからである。他のチーム監督が”ひとつひとつ確実に勝っていくだけです”と全ての試合を勝ちに行ったのに対し、森監督は捨てゲームをつくりながら、そのかわり絶対落とせない試合は確実にひろっていった。結果は皆さんご存知の通り。これが西武の”せり合いに対する強さ”なのである。ところが、3チーム以上の争いになるとこの戦略は通用しない。優勝を争っているチームに対しては当然捨てゲームはつくれないし(そのチームが浮上するだけである)、特定チームをマークする事も出来ない。戦略として”全部勝ちに行く”事しか出来なくなるのだ。覚えている人も多いと思うが、森監督になってから唯一優勝を逃した89年は、最終的に1〜3位のゲーム差が1、という三つどもえのペナントレースだった。最後の最後まで激しいせり合いが続き、全部勝ちにいかざるを得なかった西武は土壇場でひっくり返されてしまったのだが、今年もその危険性が高いのではないか、と筆者は読む。優勝争いの二番手、ではあるのだが。

 西武が絶対優位に立てるのは今後はやいうちに2チームが脱落し、残り1チームとマッチレースになった時だろう。この場合は持ち前の完成された勝負強さで一番手に挙げてよい。しかしその可能性はやや低いのではないか。

 ペナントレース前半を大いに盛り上げたダイエーは、松永を中心にチームがよくまとまっていて、昨年までとは全く違うチームとして優勝争いに加わって来た。よくここまで頑張ってきたと思う。が、もう一段UPして優勝! まではむずかしいだろう。どうにも上積みできる材料が見当たらない。去年あれだけ西武を追いつめた日本ハムが今年大きく転落しているように、選手の能力が目一杯引き出されて好調なチームはもう一歩上にはなかなか進めないものだ。良くて現状維持ではないだろうか。我慢して四番に据え続けている秋山が爆発的に打ち出し、チーム全体を引っ張るような形が出来ると望みはあるのだが、どうも秋山は西武時代からそういうタイプではなかっただけにむずかしそうだ。先発投手陣のコマ不足も気になるところ。

 逆に先発投手が充実してるのはオリックスである。佐藤・山沖にやや息切れが見えるものの、星野・野田・長谷川といったここ一番頼れる投手がいるのは強味。ところがストッパーが弱い。四強の中でどころか、十二球団の中でも一番弱いのではないか。今年は記録的な猛暑だっただけに各選手の消耗も例年以上で(後述するが近鉄の躍進の理由の一つにも猛暑がある)、試合の終盤での先発投手のスタミナ切れがどうしても起こってくる。その時に信頼出来るストッパーがいないのがつらいところである。野田をストッパーにまわす事がベターだと思うが、前述したように先発陣のベテラン組がやや息切れ状態なだけにむずかし。しかし、いずれ決断の時が来るのではないか。打でも再び四割を目指す勢いのイチローをはじめ、三割打者は何人かいるものの長距離砲がいないために迫力がまったくない。なにしろチームでいちばんホームランを打っているのが13本の藤井で、しかも打率は二割三分前後、得点圏打率にいたっては二割を切るような成績ではとても主砲として頼りに出来ない。苦しい時や先制の一発でチームは元気づき、勢いが出てくるものなのだが……。勝負強さと長打力を兼ね備えていた石嶺が抜けた穴はやはり大きかった。

 というわけで、筆者はずばりパ・リーグのペナントを制するのは近鉄ではないかと思う。鈴木監督が余計な事をしなければ、という条件つきではあるが。周知の通り、16ゲーム差の最下位から首位に立つ、という荒技は日本プロ野球史上初の出来事である。その間33勝7敗、勝率8割2分5厘なんて数字は大関や横綱のソレであって、プロ野球のものとは思えない(笑)。勢いだけでは残せない数字であるし、反動が来ていないのも頼もしいところである。ただしチームの実力だけではここまで突出した数字は残せない。近鉄にとって幸いだったのは前述した猛暑と今年から採用になった予告先発制度である。王も張本も長嶋も野村もそうであったが、強打者というのは投手がバテて球が打ちごろになる夏場には目の色が変わっていた。稼ぎ時、である。特に今年のような記録的な猛暑ならば──。いてまえ打線が火を吹き続けたのは天が味方した部分も多分にある。さらに残り試合でも、どのチームも一戦必勝態勢で主力投手陣を無理使いせざるを得ないような状態になると思われるので、近鉄の打棒はふるいつづけるのではないか。また、予告先発制によって相手の投手にあわせた打線が組めるのも大きい。ブライアント・石井・鈴木のクリーンアップ以外は全てのポジションで、しかも高いレベルでスタメン争いが出来る層の厚さは、相手の投手が事前にわかるこの制度で最大限に生かされる。敏腕・水谷バッティングコーチも腕のふるいがいがあるだろう。投手陣は決して万全ではないが、赤堀がしっかりしてるのと、現在絶不調の佐野・江坂・酒井らの復調が見込めるので打線が極端に落ち込まなければ何とかなりそう。優勝候補一番手に推すゆえんである。

 さて、これをみなさんが読んでいる時にはどうなっているだろう。来月は当たったら自慢を、外れたら言い訳を書く(笑)。

 各チームの健闘を祈る。

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