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1998年1月号
written by 来素果森

日本シリーズを振り返る(1)


 大分部の評論家が予想した通り、'97の日本シリーズはヤクルトの勝利で幕を閉じた。結果を見る限りにおいては順当な結果だろう。古田をはじめとして脂ののりきった選手のそろったヤクルトに比べ、キャッチャーの伊東をのぞけば主力のほとんどが実質的にはシリーズ初挑戦という若い西武では、やはり相手にならなかった。まったく正直なところ、もともと大舞台に強くシリーズ男の異名を持ち、シーズンでも自身初の3割を打ち更に得点圏打率がリーグ3位と絶好調だった飯田の故障欠場がなければ西武はひとつも勝てなかったのではないか。もちろん、勝負事にれば、たらは禁物だし、西武側においても第3の投手・豊田がいればまた違った展開になっただろう、という言い方もあるだろうが。しかし、実際4-0で決着がついてもおかしくなかったほどの力量差を感じたシリーズだった。やや手前味噌になるが先月号のこの欄で予想したように、西武の機動力はほぼ完璧に封じられた。盗塁企画6に対して成功は3、盗塁阻止率にして50%という数字は古田にとってシーズン以上の数字であるし、そういった表面上にあらわれる数字以上に西武にとっては古田の強肩がプレッシャーになり、足を使った攻撃を仕掛ける事が出来なかった。また、マルティネスも完全におさえられた。16打数の3安打で打率'187、3本のヒットも全て単打で打点はわずか1点のみ。全く自分のバッティングをさせてもらえなかった。野村ID野球の完勝といっていいだろう。ただ、ヤクルトというチーム自体が完璧だったかというと決してそうではない。飯田は別としても投手陣ではシーズン中にあれほど安定したピッチングを見せていた田畑・吉井といった右の先発の主軸はウソのように不調だったし、本塁打王のホージーのバットからも快音が聞かれなかった。小早川はノーヒットに終った。それにもかかわらずの4勝1敗である。西武は、もう少し食い下がる事は出来なかったのだろうか。シリーズを制する事までは望まないまでも。はっきり言ってしまうと、筆者は今回の西武・東尾監督の采配を含めた戦い方に大いに疑問がある。そういった視点から日本シリーズを振り返りつつ”監督は勝つために何をすべきか”を考えていきたいと思う。

 まず何よりも気になるのは、東尾監督が自チームの戦力と相手チームの戦力をどう分析し、どのような認識をもってシリーズに臨んだかが戦い方をみてもまるで見えてこない点である。チームの総合力はどちらが上なのか。同格なのか。どちらかが上ならばどの部門で差があるのか。投手力なのか。守備力なのか。攻撃力なのか。守備力は互角で、攻撃力は相手が上廻っているが投手力は自軍が優勢なのでトータルでは同格、といったような見解も成り立つし、また攻撃力と守備力は自軍が上廻っているが、相手の投手陣があまりに強力なので総合的には不利だ、といったような見解が成り立つ事だってこれまた有り得る。様々な考え方があると思うが、東尾監督ははたしてヤクルトと西武の戦力をどう評価し、どう認識していたのだろうか。日本シリーズを”日本一の監督”という称号を得るための資格試験とするならば、以上の問題は基本問題である。この問題が解けてはじめて応用問題──実際のゲームでの采配──に手をつける資格ができる。しかしながら東尾監督にはこの基本問題が解けてなかったのではないか。采配以前の問題が大きすぎた。評論家諸氏の意見を聞くまでもなく、総合力としてはヤクルトがかなり上廻っている事は東尾監督もわかっていたろう。問題はそこからで、では、弱いチームが強いチームを倒すにはどうしたらいいか、その方法論を呈示してはじめて監督というものは基本問題を解いたことになるのである。もちろん、結果は問題ではない。田畑と吉井がそうだったように、監督がどんな作戦を立てても選手が思ったように働かないことなどというのはザラにある。しかし、その事と問題自体を解けなかった事は全く違う。東尾監督は明らかに後者だった。弱者が強者を倒すための解答を手に入れられなかった。それが、今回のような、後の試合になるほど一方的な試合展開になるという結果を生みだしてしまった。弱者が強者を倒そうとする場合、強者と同じ作戦をとっていたら勝てるはずがない。弱者がとるべき作戦は”セオリーに基づいた奇襲”である。具体的に述べていこう。まず、西武の投手陣の中でほとんど唯一の切り札と言ってよい西口の使い方であるが、周知の通り東尾監督は初戦に先発させた後、3・4戦はベンチに入れて展開次第ではリリーフに投入するかまえを見せ、そのような展開にならなかったので第5戦で先発させた。これは”セオリー無視の奇襲”である。初戦で敗れたとはいえあれだけの投球を見せた
 
 西口が石井一より明らかに上な点は多少の無理使いなら出来る点で、その点では1・4・7という選択はさほど困難ではないと思ったのだが…                                   (この項つづく)

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