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1997年11月号
written by 来素果森

日本シリーズ予想。ヤ優位か?


 今年の両リーグペナントレースは、セが”ID野球”のヤクルトが、パは松井・大友・高木大・高木浩ら若手が大きく伸びた西武がそれぞれ制し幕を閉じた。カネでペナントを買おうとした某チームにとっては悪夢のようなシーズンだったろう。大金を積んで買い漁った選手のうち、ヒルマンは”今年はリハビリの年”、とズル休みを決め込んで投げようとすらしなかったし、清原は案の定ピエロにしかなれなかった。清原の事はまた回を改めて取りあげるが、その「ガン」(仰木監督談)がいなくなったチームが優勝してしまうのだから野球の神様は残酷である。巨人軍ベンチ内では清原排除の連判状までまわったという。こうなると野球以前の問題のような気もするが、やはりあの頭の悪い首脳陣が清原を再生出来るわけはなかった。その意味では予想通りの結果というべきか。ともあれ、今年は銭ゲバ野球を標榜する某チームにはいい薬に…なったとは思えない。あの下劣な人間がオーナーである限りは愚行はくり返されるのだろう。セの他の球団は、日本のプロ野球のためにも来年以降も頑張って欲しい。いくらあのオーナー氏でも、10年間位優勝から遠ざかれば銭ゲバという方法論をあきらめるだろうから。今年の結果を見たオーナー氏はフロント大粛清とかワメいてるようだが、心ある人はみなこう思っているだろう「お前がやめろ」。

 さて、今回は18日からはじまる日本シリーズの展望を、両チームの今年を振りかえりながらしてみたいと思う。両チームともシーズン前の下馬評は決して高くなかった。特にヤクルトはかなりの評論家が5位、または最下位候補に挙げていたほどである。ところが結果は一度も首位を譲ることのない大独走。唯一ヒヤリとしたのは横浜が猛追してきた8月中旬、直接対決で3連敗した時(8月19日〜21日)ぐらいだろうか。仮に3連敗しても3.5ゲーム差あるこの3試合は野村監督にとっては天王山という意識はなかったはずだ。やはり今年のセのペナント争いで一番重要だったのは両チームが3ゲーム差でぶつかった9月2日、3日のに二連戦だったろう。例の石井のノーヒットノーランと、エースの田畑を1点取られただけで登板させて継投策でもぎ取ったこの二試合。これで実質的にペナント争いに決着をつけたと言えるし、これ以外でも伏目伏目の大事なゲームはヤクルトはほとんど落とさなかった。監督の腕前が十分に証明されたシーズンと言えるだろう。一方の西武は全く対照的で、4連勝と波に乗り、首位のオリックスに1.5ゲーム差と追って迎えた8月15日からの直接対決で3タテをくらわされてしまう。やや地力に劣ると見られ、オリックスに対して若手意識のあった西武にとってはこれこそ天王山の戦いだったのだが。ゲーム差もたちまち4.5ゲーム差になり、大部分の人間はこの時点で、オリックスのV3を信じたと思うのだが、ここからの15試合を西武は14勝1敗という驚異的なペースで突っ走る。若いチームゆえの爆発力といっていいだろう。先を読んでしまうベテラン主体のチームだったら、3連敗した時点で意気消沈し、とてもこんなスパートはかけられなかったに違いない。ここで西武は一気に首位に立ち、そのまま押し切った。しかし、8月27日に首位に立ってからオリックスとの直接対決は3回(8月29日〜31日三連戦・9月13日〜15日三連戦・9月30日〜10月1日二連戦)あったが、いずれも大事な初戦を落としている。ローテーションのめぐり合わせの問題もあるとは思うが、まだまだ発展途上のチームである事を感じさせる。今期のヤクルトもそうだったし、森西武の黄金期を思い起こしてもらえるとよりわかると思うが、これらのチームは、首位にいて二位チームと戦う時、必ずと言っていいほいど三連戦の初戦をとっていた。選手・首脳陣の顔つきからして違っていた。ここらへんは若い西武はまだ甘い。今年の優勝も、オリックスの自滅に助けられた部分もないとは言えない。同じようにダークホース的存在で優勝あっても、ほぼ完璧な戦いぶりをみせたヤクルトとはすこし違うといっていいだろう。

 そして日本シリーズだが、正直なところ大きなアクシデントがない限りヤクルトの優位は動かないとみる。あえて勝敗まで述べるなら四勝一敗か二敗で決着がつくのではないか。石井一・田畑・吉井がそれぞれ二試合ずつ投げられるようなローテーションを野村監督は組んでくるだろうが、シーズンでの安定度をみてもこの六試合で西武が三つ以上勝つのはかなりむずかしそうだ。西口・潮崎・石井丈・石井貴・豊田といったところが西武の先発組だろうが、東尾監督も起用法に悩むだろう。西口はひょっとしたら東尾監督が現役時、当時の広岡監督に日本シリーズでそう使われたように、勝ちゲームを確実にモノにするためのロングリリーフとして使われるかもしれない。オリックス戦でもそんな使われ方をしていた。ただ、元々キレで勝負するタイプのピッチャーだけにシーズン後半にだいぶ酷使されたのがひっかかる。ベストの状態で出てくればヤクルト打線もかなり手こずるだろうが。シーズン終盤に故障で戦列を離れた豊田も間に合うのだろうか。ただでさえ先発陣に不安のある西武としては、安定感のある彼が出てこられるかどうかは大きな問題だ。正直なところ、西武で間違いなく先発でくるであろうと予測がつくのは潮崎くらいで、それ以外は想像がしにくい。豊田が投げられなくて西口が調子いい場合には1・4・7戦西口、2・6戦潮崎といったパターンすら考えられるし、読みにくい。しかし野村監督がそこらへんにぬかりがあるとは思えないが、ヤクルトは故障上がりの石井一が中5日で投げられる2・6戦にくるのはほぼ確実。吉井と田畑が1・5戦と3・7戦のどちらに来るのかがむずかしい。シーズンの成績、安定度は全くの互角。初戦に経験豊富な吉井がくるか、コントロールがよく変化球が多彩で西武打線にさぐりを入れるのに最適な田畑がくるか。4戦には故障が回復していれば川崎、ダメなら伊東・山部・ブロス・山本…といったところから出てくるだろう。誰が来てもおかしくはない。やはりヤクルト有利だろう。

 古田の肩対西武の機動力、といった見方もあるようだが、実はこれはやや眉唾物ではないかと筆者は思う。72年の日本シリーズ阪急─巨人戦で、シーズン106盗塁という驚異的な記録を打ち立てた阪急の福本が、巨人バッテリーの執拗なマークにあい完全に封じ込まれた事があるように、短期決戦においては備えさえあれば脚は封じ込められる。当時の巨人の捕手は特に強肩とは言えない森だった。球史に残るだろう強肩の古田と”備え”に関して超一流の野村監督が組んでいるのだからこの面からの攻略はむずかしいのではないだろうか。

 誌面が残り少なくなってきた。今期ばかりは続く。とはいかないので結論を急ぐ。マルティネスはブーマーに見立てられて、胸元の速球で攻められるのではないか…とか書きたい事はたくさんあるのだが、。西武が勝つとするならペナント時と同じように一気に押し切るしかないだろう。初戦からでなくてもいいが、とにかく4連勝である。ひとつでも途切れると逆襲にあいそうだ。守りにおいては伊東という絶対の存在がいるだけに、松井・大友・高木等の若手が風を起こせるかどうか──彼らが封じ込まれた場合には地力に勝ると思われるヤクルトを倒すのは容易ではあるまい。   (この項おわり)
 

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