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1996年12月号
written by 来素果森

ほらね。


 単刀直入に伺いますが、勝ち負けはさて置くとしても今年の日本シリーズ、面白かったですか?。人気度の面においては最高の組み合わせと言われたオリックス対巨人。レベルの面においてもプロ野球の、イコール日本の野球界のもっとも強いチームを決めるための決戦にふさわしい野球を観せてくれましたか?。残念ながら筆者にはとてもそうは思えませんでした。より正直に言えば、あまりにレベルの低い試合の連続に情けなくなりました。もちろん9割以上の責任は、銭ゲバ野球でペナントを勝ち抜いてきたセントラルリーグの代表チームにあるのですが。今月は史上稀なる凡戦となった96年日本シリーズを振り返ってみましょう。

 別にシリーズに限った事ではなく、ペナントレースの試合でも同じ事が言えるのですが、監督及びベンチの腕の見せどころであり、もっとも能力が試されるのが投手の継投。山田ピッチングコーチと仰木監督のオリックスベンチがほぼ満点に近い回答を見せてくれたのに対し、堀内ピッチングコーチと長嶋監督のそれは赤点どころか限りなく零点に近いものであったといっても過言ではないでしょう。フレーザーに完璧に抑えこまれてスコア上は惜敗となった第2戦をのぞき、1・3・5戦は全て勝負どころで出て来たリリーフ投手(1戦/川口・河野、3戦/水野、5戦/河野・西山)が軒並み決定打をあびるていたらく。満天下にベンチの無能ぶりを再認識させてくれました。継投時にベンチが考えなくてはいけない事は(1)継投自体の是非、ようするに先の投手を交替させるかどうか(2)交替させる場合には誰を投げさせるか、があります。その判断根拠として(a)現在投げている投手の調子(b)次に投げる投手の調子(c)その試合の状況(d)(ペナントなりシリーズなりの)全体の状況…といったものがまたあります。これらを踏まえた上で考えてみましょう。まず事実上シリーズを決定づけた第5戦の3回裏、オリックスが5点を奪ったシーンから。ポイントは3つで、(1)巨人の中でもっとも信頼できる投手であり、自他ともにエースと認める存在である斎藤を、序盤のこの時期、しかもあとひとつアウトを取ればチェンジになる段階で変えるべきかどうか。しかも次打者のD・Jはこのシリーズここまで7打数1安打4三振と絶不調であり、左投手を出したら当然右の代打が出てくる事が予想される(2)第一戦で決勝ホームランを打たれた河野をこの場面で登板させる事は適切か(3)なお続く満塁の場面で西山を登板させる事は適切か、です。結論は言うまでもないでしょう。読者の中には、河野登板の場面での代打が本西や馬場でなく、なぜここまでシリーズノーヒットの高橋智だったのかいぶかる人も多かったかもしれません。しかしこれこそ仰木一流の選手起用法で、194cmと大柄で過去にはシーズン29本(92年)の本塁打を打ったこともある長打力をパ・リーグ育ちの河野が忘れているはずはありません。第一戦での記憶と相まって縮こまってしまったその左腕は、ストライクをひとつとるのがやっとで、あっけなく押し出しの四球を出してしまいました。その後に出てきた西山も、このコーナーでも再三取り上げたように元々コントロールに不安があり、ランナーを背負う場面で出てくると能力を発揮できないタイプ。ましてや押し出しの後。どうしてもストライクを取りたい初球はどまんなか高めの甘いどころではないスライダーで、ライトフェンス直撃の二塁打となりました。広いグリーンスタジアム神戸以外だったら入っていたかもしれません。ともかく、勝負はここで決まったといってもいいでしょう。エースの沈没に意気消沈した巨人打線は、1点返すのが精一杯でした。零点回答の継投策でした。

 勝つには勝った、というか勝たせてもらった第4戦の継投策もひどいものでした、と書くとえっ、なんで?と思う人もいるかもしれません。しかし、実は筆者はこの第4戦は”捨てゲームのつくり方”を間違えた仰木の大チョンボで、それに対する対応すら間違えなければここから巨人逆転優勝は十分ありうる、と思っていました。ところが惜しむらくは、というか当然ながらというか、優秀かつ有能で、給料ドロボーの集合体であるといってもいい巨人のベンチは、このチャンスを生かせませんでした。第4戦が始まる時点で0勝3敗の巨人ベンチが考えなくてはならない事はなんでしょうか。ひとつ勝つ事でしょうか。違いますよね。よっつ勝つ事ですよね。そうすると、オリックスが捨てにきてくれたこのゲームの戦い方は、この試合を除いたあと3試合との関連を考えた上で戦わなければなりません。するとポイントは結局「斎藤の次の登板をどうするか」という事に尽きます。第2戦に投げた槙原はいずれにしても中5日以上の第6戦以降になるわけだから問題はないですから。第1戦で114球とさほど球数は多くないものの、明らかにスタミナ切れが原因で打ち込まれた斎藤の状態を考えると、間隔を十分に取って投げさせた方がベターであるという事は明らかだと思われます。ペナントでもほとんど経験のない中4日でいい結果を出す事は、かなりむずかしい事ではないかという予想がたちます。そうすると、斎藤は第6戦、槙原が第7戦という選択肢が浮上します。では第5戦は誰が投げればよいでしょう。答えは簡単で、第2戦で絶好調ぶりを証明した木田です。その意味で、ここの第4戦での継投策は最悪なのでした。プロ入り通算2勝の豊田を先発させる、というのは前西武監督の森やヤクルト監督の野村がよく見せる”捨てゲームづくり”とは似て非なるものです。シリーズの流れを一気に変えかねない緩手です。ここを巨人は衝いて、木田を使う事なくこの試合をモノにしなければなりませんでした。巨人1点リードの4回の表、一死二・三塁でバッター一番の仁志、というピンチを迎えても左腕の金田をそのまま投げさせるほど勝利への執着心がなかったオリックス。好投していた宮本を一点取られただけの3回で降ろし、最後の切り札といってよいような木田を投入した時点で、この試合の勝負はともかくシリーズの帰趨は見えました。残り4試合を全部勝たなければいけない、という時の方法論は決して”一試合ごとに全ての戦力をつぎ込み、何がなんでも勝にいくこと”ではありません。それはひとりよがりの自己満足でしかありません。追い詰められた時こそ冷静に自己の戦力を洗い直し、残り4試合トータルで考える能力と度胸が司令官には必要不可欠のものです。なるほど、例えば第5戦で敗れて斎藤と槙原を残して終わったら悔いは残るだろうし、スポーツマスコミの中でも愚かな人々は大騒ぎするでしょう。しかし、悔いを残さぬよう力の限り頑張った結果負けたから仕方がない、なんていうのはアマチュアのレベルです。残念ながら、というかわかりきった事ではありましたがやはり巨人ベンチはそのレベルでした。否、それ以下でした。エースと心中する事すら出来ませんでしたから。考えられる限りの最悪の采配だったと言えるでしょう。当然これは選手にも敏感にひびきます。相手が手を抜いてきた第4戦と、絶好調の木田が投げる第5戦を乗り切れば本拠地で共に中6日と休養十分な斎藤・槙原で勝負できる、となれば目的意識も出来ますし、気分的にも五分で戦えたでしょう。オリックスの選手は浮き足立ったはずです。もちろん結果論ではありません。このように筋が通った投手起用をしても負けるときは当然負けます。しかし、やるべき手段、やるべき方法論をとった上での敗戦には筆者は非難はしません。プロとは言えないようなおそまつなベンチワークだから問題にするのでした。           (この項つづく)

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