96年のペナントを占う──パ・リーグ編──
去年の日本シリーズの前にオリックスのデータをチェックした角ピッチングコーチ(当時)は、なぜこのチームが独走でペナントを制したのかどうしても理解できなかったという。強さの秘密がわからないのではなく、なぜこんなに勝てたのか、本当はそんなに強いチームではなかったのではないか…という疑問である。この考え自体はさほど珍しい考え方ではなく、ダイエーの王監督なんかも公言している意見であるが(去年ダイエーとオリックスの対戦成績は13勝13敗の五分)、面白いのはチーム打撃成績・投手成績ともにリーグ3位のヤクルトのコーチが、ともにリーグ1位のオリックスのデータを見てそう言っている事で、ID野球の神髄をうかがわせる。表面上あらわれる数字ではなく、本当の強さを見る事が出来る能力──ヤクルトがオリックスを見下ろして戦い、一方的な勝利を得る事が出来たのも納得できる。前置きが長くなったが、今年のパ・リーグのペナントを考える上でおろそかに出来ないのは、去年のオリックスの、二位ロッテに12ゲーム差もつけた優勝をどう見るかである。結論を急ぐと、筆者もまた去年のオリックス独走はイコール実力とは考えていない。他チームに比べて圧倒的に戦力的に勝っていたとは思えない。近い将来黄金時代をむかえるかもしれないヤクルトを相手に他チームはどう戦うべきか、という視点が先月書いたセ・リーグのペナントレースを考える上での視点だったが、パ・リーグのそれを考える視点は”西武王朝が崩壊し、はたしてどのチームが(もちろん西武の復活も含め)今後のペナントレースの主導権を握っていくか”である。ここから考えていきたい。
昨年42セーブポイントを挙げ、守護神の名にふさわしい活躍をした平井の不調が気がかりなオリックス。ただ、星野・長谷川・野田に加え小林・高橋の成長も見込める投手陣は中継ぎ陣も含め数は揃っている。大崩れはないだろう。夏場までに平井が戻ってくれば連覇の可能性はかなりあると思うが、筆者は今年の平井の復活はむずかしいと見る。夏場までに平井が戻ってくれば連覇の可能性はかなりあると思うが、筆者は今年は平井の復活はむずかしいと見る。それが無条件で推せない理由である。イチロー以外はいまひとつ信頼が出来ない打撃陣も嘉勢の成長以外は特にプラス材料はなく、少なくとも去年のようなブッチギリの優勝はないだろう。
ある意味ではもっとも注目度が高いチームがロッテ。人気のバレンタイン監督を切って背水の陣でペナントにのぞむ。伊良部・小宮山を軸とする先発陣と河本・成本のダブルストッパーは質的にはオリックスを上廻る能力を持つが、決定的違いは層の厚さ。先発陣に前の二人に加えてヒルマン・園川・黒木・中継ぎの吉田、とここまではいいのだが後が続かない。広岡GMもそれはわかっていて高柳・仲田など過去に実績のある投手の再生を目指しているが、これがどう出るか。内藤・津野も含めたこの4人の中から誰か出てくれば優勝の現実性はぐっと増すのだが。田村・仁村をはじめとした補強は明らかに今年に照準を絞ったチーム造りになっていて、チームの本気度がうかがえる。打線はいいラインナップが組めるようになった。
石毛・辻・平野・秋山・工藤…黄金時代を支えた面々が次々と去り、明らかに端境期にある西武。投手陣はまだ数がそろっているものの、あの”西武野球”はもう戻らないのだろうか。オープン戦を見ていてもそれが感じられないのが残念でもあり、気になった。清原もどうも良化の気配がない。東尾が適切な手を打たなければ、最下位まであると予告しておく。西口、松井など楽しみな若手はいるのだが。
圧倒的な最下位予想をくつがえし、ほとんど上田監督の手腕でAクラスまであともう一歩のところまで進出した日本ハム。今年は白井・田村・中島といったチームの軸を切り、世代交替を押し進めた。上田らしい荒ワザだが、広岡流にも似た背水の陣である。これでチーム成績が落ちたら反発が一挙に噴出すだろう。このチームのポイントはやはりキャッチャー。西崎・グロスをはじめ主力投手はほとんど技巧派なだけに、リードしだいで防げる点・落とすの点の差は大きい。山下・田口および新人の荒井といったところがどこまで踏ん張れるか。関根・酒井・白井といったここ数年不調な投手組からの台頭がないと決して豊富とは言えない投手陣なだけに苦しい。
やや厳し言い方になるが、可能性という点で一番優勝から遠いのはダイエーではないか。先発陣ではっきりメドが立つのは工藤と吉田ぐらいなもの。ヒデカズ・若田部・藤井・内山ほか潜在能力はありそうな人材はけっこういるのだが、大きく貯金を稼げそうな投手が思い当らない。吉武あたりが右の軸になれないと苦しいだろう。打撃陣は小久保・村松ら若手が出て来ているところに名伯楽・水谷コーチを得て楽しみであるが。
密かに一発の期待がかかるのが、去年は勝率3割台だった近鉄。元々潜在能力はあるチームなだけに、調子に乗れば面白い。高村・酒井とイキのいい球を投げる若手がひっぱり、山崎・西村・アキーノ・香田・小池・江坂といったところが自分の仕事をすればブッチギリの可能性まである。ただこのチームは例年故障者に泣かされる事が多いので、コンディショニングがポイントになる。去年の凋落も石井・ブライアント・高村といった投打の柱のアクシデントによるものだった。主力がつつがなく一年を終えられれば、それなりの位置にいるだろう。
こうして見るとオリックス・近鉄・ロッテの3チームが高い可能性を持ち、西武はいま一歩、日本ハムとダイエーはきびしそうだ。もちろん主力に故障なくシーズンが進んだとしてではあるが。あとはいくつかのポイントを挙げておこう。
●オリックス仰木は、どこをお客さんにしようとしてくるか
去年は積年のコンプレックスを晴らして西武戦で21勝5敗、と16も貯金したオリックスだが、今年もそう上手くいくとは思っていないはず。策士仰木はどこに貯金箱を見つけるか。投手起用を注意深く見ているとわかる。
●日ハム上田は今年勝負をかけてくるか
今シーズンは捨てます、などと公言する監督がいるわけはないがチーム造りを勝利に優先させる場合はある。金石の使い方と、首位チームにどういうスタンスで戦っていくかでわかる。
●西武東尾はどういう方法論でチームの立て直しをはかるか
広岡・森野球の流れを拒否するのか、受け継ごうとするのか。去年は一年目という事で多少大目に見られる部分もあっただろうが、今年はそうはいかない。これが東尾野球だ、というものを創り出せるか。
●二人の新監督、ロッテ江尻と近鉄佐々木の野球は
それぞれ広岡・西本というお手本をもつ二人。オープン戦を観る限りではめざそうとする方向性はわかる。ただそれを実戦で生かせるかどうかはまた別の問題。お手なみ拝見といったところである。
いずれにしてもイチローを擁するパ・リーグはセ・リーグに人気面でも追いつくチャンスである。各チームの健闘を祈る。 (この項終わり)
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