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1996年1月号
written by 来素果森

僕が、言ってやる。でっかい声で言ってやる──FAとドラフト(1)

 近い将来に日本をダメにするであろう制度に小選挙区制というものがある。政治を改革しなければならない、というエネルギーが党利党略によってねじまげられてこういうカタチになったのだが、今では当時反対だった議員はもちろん推進した議員のほとんども内心とんでもない事をしてしまった…と反省しているようである。いずれこのツケははっきりと国民が払わされる事になるだろう。そんなレベルの議員しか選べなかった国民にとってある意味自業自得である。一方、プロ野球界においてこれに勝るとも劣らない愚挙がFA制度と改悪ドラフトである事もまた間違いないところである。ただしこちらは先の小選挙区制度と違って国民に直接責任があるわけでなく、正攻法では王座を得る事が出来なくなったのを悟った老舗球団が、バックが日本最大のマスコミである事をいい事にうす汚い手法を使って強引にゴリ押しし、世界中のプロ野球で日本だけ、という特殊な状況をつくり出した。責任を負うべきはそこである。それぞれのチームが置かれている様々な条件(フランチャイズの地域性〜例えば首都を地元とするチームと地方都市を地元とするチームでは観客動員数に差があって当然〜や、スポンサー企業の大小〜その規模の違いで新人獲得に振りわけられる金銭も変わってくる〜)の違いを無視してドラフト上位指名選手を実質的に自由競争化するのは、さあ、同じ条件なんだから正々堂々と勝負しなさい、とカール・ルイスと村山首相を同じ100Mトラックで走らせるようなものである。これが公正かつ公平な競争であると考える人は正直なところ脳に重大な欠陥がある、と評されても仕方ないだろう。もちろん人間界の他の国の野球機構の人間は大体において正常な人が多いので、日本と反対の、真に公正かつ公平な競争が成立するような方向でシステムが成り立っている。大リーグを例にとれば、ドラフトはワールドリーグ敗退チームの所属するリーグの最下位チームから順に指名できるようになっているし(今年の日本でいえば近鉄→阪神→ダイエー→中日…の順)、FAで有力な選手を獲ったチームは獲られたチームにドラフトでの指名権をゆずらなければならないようになっているし、TV放映権はコミッショナーが一括して管理して(全国ネットワークの場合)片寄りを防ぎ、出来る限り平等な条件の下で各チームが競い合う事が出来るようなシステムが出来ている。日本の現状がいかに異常かつ狂っているかがわかるだろう。そして、この状況をつくり出したのが読売巨人軍という組織である、という見解に異議をとなえる事はオリックスの星野に150Kの速球を投げさせる事よりももっとむずかしい事である、と筆者は思う。決してナベツネ一人の罪ではないのだ。

 もう一度原点から考えていこうと思うのだが、まずドラフトは何のためにつくられたのか。言うまでもなく戦力均衡化のためである。ドラフト施行以前の自由競争の時代には、要するにいくら契約金を出すかで有望な選手が獲れるかどうかが決まった。当然ながらお金のあるチームに有利で、貧乏チームに不利である。今は強いチームだからこう書いても許されると思うが、当時の広島なんてプロレベルの力量ではなかった。ペナントにも”参加する事”以上の意議はなかったといっても言いすぎではない位に。なにしろ、選手が獲れないのだからしょうがない。有望な選手は根こそぎ持っていかれてしまうのだから。しかも、ただ持っていかれるならともかく、それを持っていったチームはその選手を使いもしないのである。どういう事かというと、よそで活躍されるぐらいなら獲って飼い殺しにしよう、という発想なのだ。なるほどペナントレースで勝つためには相対的に強ければいいわけで、自チームが強くあれ、というのと同じ位他チームが弱くあれ、と願うのはある意味では自然かもしれない。しかし、そういうベクトルでつかんだ優勝は日本のプロ野球全体の進歩には全く寄与しないものであることもまた否定できまい。V9時代の巨人というのは正にその集大成だった。

 新宮正春という作家は、報知新聞巨人軍担当記者を経てデビューし、現在でも週刊読売誌上で『原辰徳物語 栄光の四番に生きて』を連載している巨人とともに歩んできたといっても過言ではない経歴を持つ小説家だが、週刊ベースボール11/13号のインタビューで、巨人V9時代の強さの秘密を問われて開口一番、このダブルブッキング的な補強による飼い殺しシステムを挙げている。ドラフトが出来てからできなくなったが、そういう重複のシステムを意図的に(巨人が)作っていた、と。なるほど、勝つための方法論としては大変すぐれた方法論である事は筆者も認めるが、反吐をはきたくなるような気持ちになる事もまた事実である。他チームに行けばポジションを得て野球人生を全う出来たであろう選手が、そういった理由で獲得されて出番のないまま選手生命を終えてしまう…その意図に気がつかなかった愚かさをもってのみつぐなわなければならない罪としては、罰が重すぎるだろう。このインタビューの中でも出てくる名前だが、読者の中でもかなりのマニアは「難波昭二郎」という名前に聞き覚えがあるかもしれない。六大学の本塁打王という経歴をひっさげて巨人入りした彼に王が刺激され(ポジションが同じファーストだった)、努力して結果世界の本塁打王になりました…というエピソードの時に出てくる名前である。王と競り合った結果敗れたのだったらあきらめもつくだろし、百歩ゆずって王の刺激剤としての役割しかなかったとしても、それはそれで自分にだからこそ出来た役割だ、と自らをなぐさめる事が出来ただろう。しかし現実は

新宮 難波昭二郎とか大橋勲、槌田誠なんかもそうでしたね。他のチーム に行くんだったら、獲ってしまえという。他のチームならならレギュラーで出られるし、将来のコーチにもなれる……(以下略)。

現実は美談やエピソードより常に残酷である。刺激剤、ですらないただの飼い殺し要員だったのだから。気が付いた時にはもう遅く、あとは他のチームに移っても活躍する力がない、と判断されるその日まで果てしなく続く二軍暮らし。当然年俸も上がらない。トレードを訴えても拒否され、自由契約にもしてもらえない。巨人の二軍とは永らく育成の場ではなく監獄だった。伝統とはしばしばやっかいなもので、ドラフト制度が導入されてからも巨人の二軍はなかなか育成の場になれない。イースタンV10なんて珍記録が出来るのに一軍で活躍する選手を送り出せないのは、要するにそういう二軍本来のシステムが出来ていないからである。親の因果が…ではないが、そういう歴史があったからこその現在、と言えるだろう。

 現在の銭ゲバシステム(逆指名ドラフト+FA)が問題なのは、単に金力あり余る巨人に不当に有利だからなのではない。そんな事は実は小さな事で、より本質的な問題は日本のプロ野球自体のレベルの問題にかかわってくる、という事なのである。そこらへんを次回はもう少し述べてみる。 (この項つづく)

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