日本シリーズを振りかえる─野村IDの完勝
周知の通り日本シリーズは4勝1敗でヤクルトが制し、日本一の座に着いた。大方の評論家及び筆者の戦前の予想”ややヤクルト有利”は結果としてはその通りになったのだが、内容としてはその結果以上の、圧倒的な力量差を見せつけられたシリーズだったと言ってもいいと思う。オリックスが一矢を報いた第4戦も、あちこちで言われている事でもあるが野村監督が勝ちに行っていればまず間違いなくモノに出来た試合だろう。投げていたのは故障のためシーズンのほとんどを棒に振った川崎。シーズン中にも完投は一回もなかったし、この試合も初回・二回とたて続けに満塁のピンチをまねき消耗がはげしかったのは明らかで、何がなんでも勝ちにいくつもりならそれこそ七回あたりから山部・高津らリリーフ陣を投入してただろう。ところが野村監督は全く動く素振りを見せなかった。おそらく頭の中には”川崎の奇跡の復活・涙の完封勝利”がベスト、かりに負けたとしても川崎に傷をつけなければそれでよし、ぐらいにしか思っていなかったと思う。オープン戦やペナントレースの優勝決定後の消化試合と同じ程度しか勝利に対する執着がなかったと思う。延長になっても山部を早々にひっこめ、高津を使おうともしなかった。第3戦は負けている場面で投入してきたのに、である。伊東がD・Jに決勝ホームランを打たれて負けたあとのコメントでも『あの場面でストレートを投げてはイカンな』と淡々としたものだった。ただしだからといって気の抜けたプレイを見せられたわけではなく、シリーズ球史に残るのではないかという小林対オマリーの14球のドラマやあわや再びの同点ホーマーかという最後のバッター、ミューレンの大飛球まで十二分に楽しませてくれたのだが。
戦前からの予想としてヤクルトは(1)イチロー(2)平井を中心としたリリーフ陣をどう攻略するか、というものがあったがヤクルトは完璧に答えを出した。筆者はイチローにはある程度打たれても仕方ないとして、前後の打者を徹底的に殺しにかかると思っていたのだが、どうして真っ向から勝負に出て、見事に封じ込めた。5試合を通じてのイチローのトータルの成績は.263とそんなに極端に見劣りするものではないが、打点2が示すように要所要所ではことごとくおさえこまれたといっていいだろう。内角を見せ球にしての高い球勝負にイチローもなすすべがなかった。球威ある投手がそろっているヤクルトだからこそ出来た手段かもしれないが、お見事というしかない。イチローが今回の屈辱を胸に来シーズン以降どんな変貌を遂げるかも今から楽しみである。また、平井をはじめとしたリリーフ陣も鈴木平以外はほとんど撃破した。ヤクルト4勝のうち3つは逆転勝ちでオリックスの逃げ切りを許さなかった。リリーフ陣の調子がいま一つだった事もあるが、第一戦で大野が決定的な2ランを放った後のコメント『必ず内角にストレートが来る、と思ってスライダーをカットして粘りました』からもわかるようにバッテリーは丸裸にされていたようである。読まれても打てない、という程の力量があるわけではないので切り抜けるとしたらリード、配球の妙でおさえるしかないのだが、中嶋・三輪にそれを求めるのはやはり酷だった。この大野にしても流石ベテランというべきか、内角のストレートを待っている事をバッテリーに気取られないようにしつつ狙い球をじっと待っていた。流石である。オリックスの中西コーチが、ヤクルトの代打陣は打つ事にかけてはレギュラー以上の者が多い、とミーティング時に注意をうながしていたそうだがこういう形で証明してしまったのは皮肉としかいいようがないだろう。
しかしオマリーといいミューレンといいブロスといいこの大野といい、他球団をお払い箱になった選手が日本の野球の最高峰である日本シリーズで大活躍するのだから面白い。野村再生工場の異名はダテではないし、選手の能力を見る眼があるかないかがいかに重要かがよくわかる。これらの人材を失っていたら間違いなく日本のプロ野球にとって損失だった。
野村監督から見ると”上手くいきすぎて怖いぐらいのシリーズ”だったが、オリックス・仰木監督から見てはどうだったか。選手間の力量差はいかんともし難いとしてももう少し食い下がる事はできたのではないか。ズバリ言ってしまえばどうにも不可解な、展望を欠いた采配が目につき、選手間の力量差がより目立つシリーズになってしまったように思えるのは筆者だけではないのではないだろうか。例えば投手起用であるが、平井の不調ぶりはシーズン終盤から明らかだった。それは仕方ない。ただ、平井が使えない場合にでは誰をストッパーにまわすのかという備えが仰木監督にあっただろうか。初戦に佐藤が出て来た時(それ自体にも疑問があったが)、これは平井がダメだった場合に野田をストッパーに使うための布石かと思われた。佐藤だとまず継投の展開になるので終盤に平井を出し使えるかどうかのメドを立て、使えそうなら二戦は野田、むずかしそうなら星野か長谷川を先発させ野田をストッパーにまわす…こんな構想だろう、と。ところが試合の展開もあって平井を試せないまま初戦は終わってしまった。そして第2戦。野田が先発して来た時に筆者はびっくりしたし、野村監督はほくそ笑んだろう。試合展開はオリックスにとって最悪となり、野田は完投並みの113球を投げて消耗し、平井の不調は明らかになった、事実上オリックスはここでもうお手上げになってしまったのである。何しろつないで勝ってきたチームなのにストッパーがいなくなってしまったのだから。第3戦も平井は明らかに不調で一方的に打ち込まれた。前述したが、一点負けている9回の表のオリックスの攻撃にヤクルトが高津を出してきた事が平井の調子がいかに悪く見えたかを物語っている。自軍の攻撃はあと一回しかないし、かりに同点にしたとしても延長は15回まであるというのにエースストッパーを出してきたのである。ヤクルトベンチがいかに”平井ならすぐ追いつけるし、勝ち越せるさ”と自信を持っていたかのあらわれであり、そしてそれはその通りになった。あとはもうオリックスは座して死を待つのみとなってしまった。
両チームの先発の柱の投手3人に絞ってみると、ブロス・石井・吉井のヤクルト3本柱はいずれもシーズンとは別人が投げているのではないかと思うような不調振りだった。一方、野田・星野・長谷川は十二分に自分のピッチングが出来ていた。それでもこの結果である。投手が不調の時こそキャッチャーの真価が問われる、を正に地で行くようなもので古田の力量を改めて認識させられた。MVPは当然オマリーだろうが、裏MVPがあるとしたら古田以外に受賞者はいないだろう。
話がややそれたが、仰木監督が”誰と誰に2試合ずつ投げさせ、誰をストッパーにし、その場合は誰を先発にまわすか”をしっかりとした戦略として持っていれば3本柱の調子がよかっただけにこれほどまで一方的なシリーズにはならなかったと思う。何が判断を狂わせたのだろうか。野村野球の影に見えた森がその原因だったような気がしてならない。
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