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1995年7月号
written by 来素果森

”銭ゲバ野球”がニッポンのプロ野球にもたらすもの(2)

 『打線というのはおもしろいもので、強打者ばかり並べてもつながらず「点」になってしまうことがままある。斬り込み隊長、つなぎ役、ポイントゲッター、打順によってそれぞれ役割がある。』

 以上は谷山由紀のプロ野球を題材にしたデビュー小説「コンビネーション」の中の一節である、(朝日ソノラマ社からソノラマ文庫で発売中)。こんな事は少しでも野球に詳しい人ならば常識の事であり、ましてやプロ野球にかかわる人ならば知らないはずがない事である…と思っていたのだが、少なくとも巨人の長嶋監督と武上バッティングコーチは知らなかったようだ。オープン戦を各チームが戦っているころに、長嶋が満面に笑みを浮かべて「ウチの打線に(かつての大毎のミサイル打線や近鉄のいてまえ打線のような)なにかいいネーミングをしたいですねえ」と語っているのを聞いたり、武上がアタマが後ろの地面に届くぐらいそっくりかえって「5点なんてとんでもない。一試合平均7〜8点は取れますよ」とインタビューに答えているのをTVで見た時には、二人の真意、というより正気を疑ったものである。結果はみなさんもよくご存知の通り。ペナントレースのほぼ3分の1、43試合を消化した時点でチーム打率リーグ最下位、本塁打および得点5位、と二人にとっては惨憺たる、それ以外の野球知識のある人には極めて納得できる結果が出た。それでも何とか5割ラインを維持しているのは強力投手陣(チーム防御率リーグ2位)のおかげで、これで投手力が並のチームだったら間違いなく最下位争いをしているだろう。先日中日の高木監督がチーム不振の責任を取って辞任したが、彼の場合投手陣の柱・二年連続最多勝の山本昌や右のローテーション投手鶴田・小島、さらに去年の二冠王・四番打者の大豊がいずれも故障で戦線離脱という大きなハンデがあり、やや気の毒な面がある。しかし巨人はチームに大きな影響が出るようなリタイヤ組は誰もいない。ここへきて桑田が登録抹消されたが、影響が出るとしても今後のことだろう。要するに、みずから望んだチーム造りをしてほとんどアクシデントもなくペナントを戦ってきてこのていたらくの責任は、全て巨人の首脳人の責任であるという事である。それは実は高木の比ではない。とんでもない戦略ミス、と断言してかまわないだろう。長嶋も最近は自嘲的に「ウチは守りのチームですから」などとしゃべっているが、30億円かけてファースト落合・サードハウエル・レフト広沢の守りのチームをつくるとはずいぶんとぜいたくなお金の遣い方である(笑)。少なくとも守りだけなら十分の一ぐらいのお金でもう少しましなチームが出来たと思うのだが。

 当然こういう首脳陣だから、このコラムでも何回か指摘した事のある首脳陣が本来しなければならない事、打でいえば相手の投手がなかなか打てない時にいかに一点を取りにいくかを考える----なんて事はまるで出来ていない。盗塁数もリーグ最低。四番打者をFAで失って、得点力が落ちる事を想像していたであろう野村ヤクルトが、飯田が二割三分台と不調ながらもチーム盗塁数を去年にくらべて60%UPさせ、走り屋が揃っている広島とチーム盗塁数で競っていることなんかとくらべてみると、同じ”監督”と名がついてもケタ違いの能力差があると言わざるを得まい。事実ヤクルトはチーム打率が広島と並んで4位、とそんなに打てているわけではない。池山・ミューレンといった中軸を期待された打者もいまだに調子は上がってこない。それでもこの成績である。ペナント開幕前のオープン戦のころ、チーム造りの時から野村は”この打線で一点を取りにいくにはどうしたらいいか”を考えていたのだろう。長嶋?さっき書いたでしょ。自軍の打線のネーミングを考えていたのだ(笑)。

 前回取り上げた長嶋の”7回までに勝負を決め残りのイニングで若手を育成する”というプランはいまだに実行されないようで、その言葉を信じてベンチでじっと待っている若手選手がいるとしたらまことに気の毒である(後藤が出てきかけてるけど、このような使われ方をしてるわけではないので別である)。まあ、信じてた者は誰もいないと思うが。しかし、ファンにとっては本来一番面白い後半戦の手に汗にぎる攻防が失われ、気の抜けた消化試合のような終盤を見せられずにすむ事はまことに幸運というべき事で、この点は長嶋の能力に感謝するべきであろう。よかったよかった。

 以上は主に戦略上の、ペナントレースを通しての総合的・大局的な戦い方についての検討である。次に戦術の、ひとつひとつの試合や戦い方についての検討にうつろう。これがまたデタラメなのである。もっとも大きな問題点は、繰りかえしになる事だが、人(選手)の使い方が相変わらずまるでわかっていない、という事。これは別段石毛を何度もストッパーとして投入しては失敗している事の問題ではない。むしろこれは一つの見識で、長いシーズン、ペナントを勝ち抜くためには抑えの切り札として石毛がどうしても必要との判断があり、そのための起用なのだからまったく正しい使い方だと思う。事実、ブラッグスに逆転3ランを打たれた後の石毛は徐々に復調してきている。ベンチの「お前に抑えはまかせた」という期待に応えたい例だろう。もっといえば、もともとそれまで抑えに失敗しつづけたのも石毛の調子以前にベンチのインサイドワークに問題がより大きかった、と私は見る。前述のブラッグスのホームランもストレートを続けたあげくの被弾。状況をおさらいしてみるとわかるが、2点差の9回・不調とはいえ主砲の外国人選手に対するリードとして適切だったかどうか。これで石毛が抑え失格、の烙印を押されたとしたら、本人は死んでも死にきれないだろう。

 余談がすぎた。しかし、石毛の起用にはこのように筋の通った使い方をする長嶋が、打者に対してはまるでそれが出来ないのはなぜだろう。金にあかせて大リーガーや他チームの4番を取る事の是非はともかくとしても、やって来た彼らはぽっと出の新人ではない。実績もプライドもある人材である。彼らを活かすにはそれなりの処遇を考えなければならない事はいうまでもないだろう。マックの、広沢の、ハウエルの実績〜打点王だったり本塁打王だったり首位打者だったり〜を信用し獲得したのだから。ところが現実はどうだろう。単なるジャマ者のように打順がくるくると変わったマックは、最近はおよそ似つかわしくない一番に置かれている。現在セ・リーグ6球団の先頭打者の中で盗塁ゼロなのはマックだけ。おそらく大リーグでもほとんど経験がなかったであろう送りバントも命じられた。打点王を二度取っている広沢はチャンスに代打を送られた。その後藤が本塁打を打ったので結果オーライの形になり、長嶋の決断をほめたたえる評論家もいたが、これはとんでもない間違いである。もちろん、この時をもって広沢に見切りをつけたならまた別であるが、その後も使いつづけているところを見るとそうではないようであるし。広沢の打率は石毛の成績とは対照的にますます落ちこむ一方。この事から何がわかるか。                                     (この項つづく)

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