”銭ゲバ野球”がニッポンのプロ野球にもたらすもの(1)
「あくまで自前の戦力をそろえるのが理想です。ですから、若手にはチャンスを与えます。オフにあれだけの補強をしたのも、実は7回までには試合を決めて、残り2イニングで若手を使いたいから。どうせ試合には出られない、という現実逃避的考え方はやめてほしい」(週刊ベースボール4/17号・ジャイアンツ特集)----巨人の御用評論家も含めた、プロ野球関係者が一致して指摘する巨人軍若手選手の無気力さと伸び悩みを問うインタビューに対しての長嶋監督の答えである。私はこれを読んでなんかもの悲しい気持ちになってしまった。いやしくもこれがプロ野球の監督が発言した内容だろうか。日本の野球レベルはここまで低いのか、と暗澹たる思いがした。私はこのコラムを一般スポーツ紙読者よりはやや高いレベルの人向けに書いているので、このコラムを楽しんでもらっている方には長嶋発言の愚かしさが私が説明するまでもなくわかっていると思うが、おさらいの意味もこめて少しくわしく分析していこうと思う。実は、こんなに短い発言なのに、山のように誤りがつめ込まれているのだ。
まず冒頭のセンテンスなのだが、さすがに長嶋にも現在の”銭ゲバ野球”が異常なやり方であり、恥ずべき事だという認識はあるようだ。自前の戦力をそろえたいのだができないから次善の策として、というニュアンスである。監督すら目指していない野球を見せられるファンはたまったものではないが、それはひとまず置いておくとして、なぜ目指す野球をやらないのだろう。名監督と呼ばれ、チームの黄金時代を築いた監督たちはみな自分の信じる野球を行うために選手を鍛え、教え、組織して一時代を築いてきた。たとえその監督が退いても、その野球はチームカラーとして受けつがれる位の影響力を持って、である。リーグのお荷物球団だった近鉄を強いチームに育てた西本の攻撃野球が今の近鉄に、また古葉の機動力を重視したいわゆる赤ヘル野球が今の広島に受けつがれている事を否定するものは誰もいないだろう。長嶋が今回監督に就任して、目指す野球を問われた時に”スピード&チャージ”と答えた時には大変期待したものである。最近のプロ野球に欠けている2つのファクターを充実させるようなプレイを実践していってくれるならば、必ずプロ野球界全体に良い影響を与えてくれるだろう、と。ところがこの連載の初期にも取り上げたように、長嶋がやった事は原や岡崎や川相といったおせじにも快足とは言えない面々に、相手も無警戒なオープン戦で走らせて悦に入る愚行。繰りかえしになるのであまり長々と述べないが、これらの面々に走らせるのは阪神の和田に”もっとバットを大きく振ってホームランを打て”と命じるのと同じレベルの注文である。当然公式戦で走れるわけはなく、前出の川相にいたっては12回盗塁企画して成功2回、成功率一割六分六厘というていたらく。あの古田ですら盗塁阻止率は五〜六割。普通のキャッチャーで三〜四割、つまり盗塁とは10回試みて6〜7回は成功するものなのだ。いかに川相に走らせる事が無意味かがわかるだろう。それでも好意的に見れば、方法論こそ愚かだが狙いは評価出来ない事はない。既存の選手ではだめだ、とわかった時点で”では、自分の野球をやるにはどうすればいいか”考えればよいのだから。ところが長嶋はあっさり放棄してしまう。もうこの一件で彼の無能さは決定的に証明されたも同然だろう。この男には自分のイデオロギーというものが無いのだ。考えてみよ。前述の西本・古葉でもいい。または他の名監督と呼ばれる人でもいい。広岡はヤクルトを初の日本一に導いた
次に進もう。はっきり言って、次のセンテンスはプロ野球監督としてどころか、球場にただ騒ぎに来ている擬似野球ファンよりもっとレベルの低い発言である。要するに、はやめに大差をつけて勝ちを不動にし、以下のイニングは若手育成の場にしよう、という事なのだろうが、そんな場面に出てくる相手の敗戦処理投手と対戦して何がプラスになるんだろう。チャンスを与え、試合で使うことが選手を育てることだ、という考え方それ自体は正しい。しかし、もう結果が見えた状況で、相手の一軍半選手と戦う事にどれほどの意義があろう。そんなところで打つヒットには何の意味もない。たとえ凡退しても、勝負どころで一流の相手と対戦し高いレベルを肌で知る事----こちらのほうがどれだけその選手のためになる事か。目をつぶって使う、という言葉がある。たとえこのチャンス・この試合を落としてもその選手の成長のためには仕方がない…位に腹をくくる事だが、監督がそれをして成功するには眼力と度胸が必要である。才能のない選手にいくらチャンスを与えても成功するわけがないし、その選手が学んでいく過程でおこすミスに対するベンチ内外からの批判に動じない姿を見せ続けなければチーム、およびその選手の動揺ばかり引き起こし戦う態勢なんか取れないだろう。これが度胸である。長嶋にはこの2つが決定的に欠けている。これも全ての評論家が口をそろえる事だが、巨人の二軍はイースタンV9の実績が示しているように、人材の宝庫である。他球団から見るとうらやむばかりの。ところが、長嶋から見るとそうでないらしく「〜次が出てくるには時間がかかります。それまでは何とか、戦略(トレード、FA)に頼るしかないでしょう。その間に、次代の選手を作りますよ」という事になる。もう読者方にもおわかりだろう。これは若手をつぶすためにはもっとも適当な方法だが、それ以外にはあまり適さない。二軍のチームを優勝させるにはいい方法だけれども(笑)。まさか一軍が果たせなかったV10を二軍にやらせるためにこのような手段を取っているわけでもあるまい。
かりに一歩、いや百歩ゆずって、”勝負の決着がついた後半の一〜二イニング、打数にしてまず一回、守備機会もあるかないか、対戦する相手は二線級”の状況で若手を投入して育成する、という考え方に有効性を認めてあげ、なおかつ”オール四番打線”がそのような状況をつくり出せる(これについては来月じっくりと笑いとば…いや、検討するとして)と、全て長嶋が考えている通りに事が運ぶとしてみよう。するとそこで行われている野球はすさまじくつまらない野球はすさまじくつまらない野球だろう。手に汗握る攻防も、リリーフエースの快投も、ベンチの様々なかけひきもない気の抜けた戦い。お客も半分近くが帰っているだろう。見せものとしては失格でsる。もちろん、真剣勝負ゆえ、結果としてそうなってしまう試合は当然ある。しかし、それを目指している監督がいるとは思いもしなかった。
(この項つづく)
▲バックナンバー一覧へ
▲トップページへ
|