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1994年11月号
written by 来素果森

激闘ペナントレース、セ・リーグの巻

 野球に限らず勝負事に「もし〜」や「〜たら」は不要、とよく言われるが、もし7月のある日に巨人の首脳陣が全員フグかなにかに当って入院し、かわりに応急処置という事で埼玉県の大里村では一番野球に詳しい、と寄り合いで評判の山田鉄平さん(58歳農業)を監督に、以下その友達をコーチにして戦っていたら9月中旬には優勝が決まっていたに違いない(笑)。そのぐらい現在の長嶋以下のスタッフはひどい。これを書いている今日は実は9月28日で、中日に一ゲーム差まで詰めよられている状態。先月の轍を踏まないためにもギリギリまでねばったのだが〜先月のお詫びは後述〜、正に天王山の中日--巨人二連戦は台風のため順延されそうで、どうしてもギリギリのシメキリに間に合いそうもない。しかしこの後たとえ巨人が盛りかえして結果的にペナントをつかんだとしても首脳陣に対する評価は全く変わらないので、今回はこの事を書こうと思う。

 言うまでもない事だが野球はチーム対チーム、組織対組織の戦いである。王がどんなにホームランを打とうと、江夏がどんなに速い球を投げようとそれだけで勝てるものではない。グラウンドにいる9人とベンチにいる控え選手たちの力を組み合わせて勝利を目指す、その体勢をつくりだすのが首脳陣のもっとも基本の仕事である事はいうまでもない。そしてその場合に誰をどの様に使うか。全ての選手が試合に出たいのは当然である。その中からどのように選手を選んでいくかが問題なのだが、消化ゲームで若手を育てていく為にやや力が落ちる選手でも目をつぶって使うような場合をのぞき(その場合でもベテラン陣からは不満が出る)、実力で選んでいかなければ誰が納得するだろう。これまで書けば何の事を指しているかわかっていただけると思う。言うまでもなく一茂の事である。

 守備固め、と称して一茂が試合の終盤に三塁の守備につくようになったのはいつごろの事だったか。なるほど、岡崎は決して上手い三塁手ではないけれども一茂よりははるかに上手である。岡崎はさぞ面白くなかったろうけど、まあ一種のファンサービスとしてやっているんだ、と無理やり自分を納得させていただろう。しかしこのような不信・不満は必ずたまっていく。まだ8ゲーム差以上あったのであまり騒がれなかったが、7月の巨人--ヤクルト戦で、ヤクルトが一点リードして九回裏の巨人の攻撃をむかえた事があった。打順は九番の投手から。ヤクルトの投手は高津。TVの解説者を含め誰もが一発長打のある大久保を予想していたのだが出てきたのは一茂だった。あからさまにほっとした顔をして高津が投げた初球をひっかけたボテボテのショートゴロをベンチから見ていた選手たちはどんなに白けただろう。何より大久保が納得しまい。自分より力が上か、せいぜい同等の選手が選ばれるならそれこそ発奮剤にもなるだろうけど。若貴のように実力=番付に反映する社会なら問題ないし、武豊のように最初は色メガネで見られていても実力で力を証明する事が出来るならばいいのだが、何も力がないのに監督の息子という事だけで起用されるのでは椅子からあふれた者はどう思うだろう。たまったものではあるまい。全くの私事で申し訳ないのだが、小生は子供の時リトルリーグのサッカーチームに入っていて、一応キャプテンとしてそれなりに活躍して…いたかな(笑)、まあそういう位置にいた。ところがある日外部からコーチが加入し、ついでにその息子が入団してきた。”コーチの息子”という事を利用した傍若無人なふるまいをするその新入りに、キャプテンとして多少はきびしくあたったかもしれない。しかしその事を息子が父たるコーチに訴え、コーチが小生をいやな眼でにらみ、次の試合からスタメンはおろか一気に二軍に落とされた時には”社会のしくみ”を勉強したような気がした(笑)。実はたいしてサッカーに執着のなかった小生よりもチームに打撃が大きく、その試合を13─0というサッカーとは思えないスコアで敗れたのを覚えている。

 話が脱線した。が、案外現在の巨人のチーム事情はこれに近いのではないか。なるほど夏場以降の正念場に弱い、というのはこのコラムでも予告した通りだし、落合が役に立ちそうもない(とうとう得点圏打率はセ・リーグ規定打席到達者33人中32番になってしまった。9/28現在)のも目に見えていた。当誌6月号のこのコラムで”オールスターまでに二位に6ゲーム差をつける”ことがノルマだと書いたのはそのような状態を分析した上での事なのだが、主力選手が故障したわけでもなんでもないのに、それをはるかに上まわるゲーム差を持ち独走体制にあったチームがここまで弱くなった例を小生は知らない。なるほど、過去には10ゲーム以上の差を逆転して優勝したチームもたしかにあった。しかしそれは今年の近鉄のようにひとつのチームが驚異的なペースで勝ち進んだ結果で、今年のように首位にいたチームがボロボロに負け続けて落ちてきた事ははじめてではないか。広島はともかく、5割ラインを目標に一進一退の戦いを続けてきた阪神や中日はある日突然”4強の優勝争い”に加わる事になってさぞ驚いたろう。両チームともフロントが既に後任監督さがしに動いていて、早めに留任を決めた阪神はともかく”優勝監督の解任”になりかねない中日はどうなることやら。これまた前代未聞の騒ぎである。

 緊迫した場面で自分の代打として一茂を出された原は”いま口を開いたら首脳陣批判しか出ませんから”と執拗にくいさがるインタビュアーを断固として拒否していたが、それこそバットをグラウンドにたたきつけて折りたい気分だったろう。正直見ていたこちらも長嶋監督の正気をうたがってしまた。方法論として原に代打を出す事自体問題だと思うが、それが一茂であるなんていうのは悪い冗談としか思えない。こんな監督の下で戦わなければならない選手が気の毒である。

 西武も決して好調ではなく、近鉄の猛追もあって一度はせり合いに持ちこまれた。しかしそこからが違う。同じ投手総動員でも各投手の力量・タイプ・調子をしっかり見きわめ、見るものをうならせる適切な投手起用で11連勝し、一気に突き抜けた。巨人は正反対である。斎藤・槙原といったところをベンチ入りさせどんどんつぎ込んでも的ハズレな使い方ばかりするのでちっとも勝利に結びつかないばかりか次の登板にまで悪い影響が出る。詳細を書くスペースがなくなってしまったので具体的には取りあげないが、9/10の広島戦といえば思い出す人も多いだろう。選手起用のイロハもわかっていないベンチ、という事がそれこそ素人にもわかってしまった。やれやれである。

 もうくどいほど書いている事だが、監督は無能でもコーチがしっかりしていれば救われる部分はだいぶあるのだが…。「監督、一茂の代打はマズイっスよ」となぜ言えないんだろう。そんなに御身が大切ですか。

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