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1994年3月号
written by 来素果森

とりかえしのつかないFAと新ドラフト(2)

 昨年のドラフトで一チームが指名した選手は平均5人強。指名順位一・二位の選手の契約金が急騰した事によって全体の指名選手数を減らし、支出金のトータルバランスを取ったチームが多かった。現在のドラフトのルールが続く限り、この傾向は変わらないであろう。出せる金の総量はそうそう変わらないであろうから。すると今後のプロ野球はどうなるか。新入団選手が少ない、という事はクビになる選手も少なくなるわけで、一・二軍ともおそろしくぬるま湯世界になる事は確実。結果、全体のレベルがますます下がっていく事もまた間違いのないところであろう。考えてもみよ。大体どのチームも毎年4人位は故障や年齢的限界で去って行く。5人しか入ってこない、という事は競争原理でハジキ出される選手はチームの中でたった1人。これでは内部での切磋琢磨など起こりようがない。大リーグのドラフトでは一チームが60〜70人程度選択するのが普通で、90年にはアストロズが史上最多の100巡目(100人!)を指名。これらの選手が入団して3A以下のチームにその時点での実力に応じて振り分けられ(アマとプロの実力差が大きい米国の野球界ではいきなり大リーグでデビューするのはほぼ皆無。全球団あわせても一年に1人はいない)、激しい生存競争に勝った一にぎりの超エリートのみが大リーグ入りできるのである。その競争の厳しさは日本から3A以下の下部組織に野球留学した若手選手の口から異口同音に語られる“昨日までのチームメイトが(シーズン途中でも)、今日はもう荷物をまとめて(クビになって)いる”というコメントからも一端がうかがえる。どちらが“より強いチーム造り”をしていく方法であるか論ずるまでもあるまい。そして、全体のレベルが下がる事ほどプロスポーツにとって危機はないのである。

 去年それこそ社会現象とも言えるほど騒がれたJリーグ。半数以上のファンはそれまでサッカーには全く興味を持っていなかった”ミーハー”ファンだろう。それは当然である。最初は誰だってそうなのだから。そのミーハーファンが試合を見続けるうちに自然に目が肥えてきて、ある程度の眼力を持つことになった時点でJリーグが全体のレベルがどうなってるか…一過性のブームで終わるか定着するかは実はこんな単純なところにかかっている。眼力がついた人がたとえばWOWOWが夜に流しているイタリアのプロリーグ”セリエA”の試合を見たら一挙に白けてしまうに違いない。当然その人はファンである事もやめ、「Jリーグもなかなかやるな」と思えるまでJのレベルが上がってこなければ戻ってくる事はないだろう。そりゃそうである。レベル低いな〜と思うものに打ち込める人はそうそういないだろうから。この眼力、というのは何も特別な資質を持った人にのみ得られるものでなく、ある程度、それこそそんなに熱心にみていなくても自然と身に付くもので、例えば国技(笑)相撲。あなたが「相撲」などの専門誌を買うほどのファンではまるでなく、結びの一番からさかのぼって5番程度しか見ない人であっても、衛星放送で昼間やってる序二段あたりの取り組みを観てみれば、確実にレベル差?がわかるだろう。眼力とはそういうものである。筆者は少年時代に少しサッカーをやってたせいもあり、普通の人よりは少し目が肥えている(と思う)ので、現在のJリーグのプレイを楽しむ事は出来ない。日本の代表選手として川崎のカズを挙げてもいいと思うが、彼ですら前述のセリエAのチームに入ったらスタメンはおろか、ベンチ入りすらむずかしい…のが現実。つかみはOK、これからが正念場というのが現状であろう。

 ついでながら触れておくが、この事は野球やサッカーだけにとどまらない。プロ化こそしていないものの、一時期あれほど人気が盛り上がっていたラグビーが落ち目になっているのは、全日本のチームを組んですら欧州の一流チームには子供どころか赤ちゃん扱い、対オールブラックス戦超惨敗(0対100いくつだったか)の影響が大きい。日本に入って来て、数年のスポーツならいざ知らず…。この試合の解説者がスポーツアナの『それほど体格面が違うわけでもないのに、この差はどこから来るのでしょう』という無邪気な問いかけに思わず『頭の差でしょう』とズバリ答えてしまい、アナが絶句して沈黙が続いたのはおかしかった。また、競馬の人気がそれこそとどまるところを知らず、この不況下でもぐんぐん売り上げを伸ばしているのは、地の利あり、というカッコつきながらのジャパンカップでの日本馬の勝利がブームに拍車をかけているのは間違いない。事実、世界のトップレベルに肩を並べる、とは言わないがさほど遜色ないところまで日本の馬のレベルは上がっているのは確か。円が強くなってよい種馬がどんどん日本へやってきた影響が大きく、当分競馬の隆盛が続くのは間違いないところであろう。

 ひるがえって日本の野球だが、少なくとも現在、世界的にもかなりのレベルである事はまちがいない。野茂や今中といった一流投手は大リーグのどのチームに入ってもローテーション入りする事ができるだろうし、古田や伊東の頭脳は大リーグの捕手のそれを上廻っている(あちらのバッティングはそれほど細かいかけひきをしない)。打者はパワーという点でどうしても見劣りがするのは否めないが、秋山や松永、前田、新庄といったいわゆる三拍子そろったタイプの選手はチームによってはレギュラーにくい込む事も可能だろう。逆に投手であれ野手であれ、現役大リーガーであれば誰でも来日して無条件に活躍できるわけでないのもみなさん御存知の通り。元スーパースターの年金リーグと陰口たたかれるJリーグとは違うのである。しかしそれを根底からくつがえそうとするのが今回のドラフト改悪。獲得する選手が減る、とこの文章の最初のほうで書いたが、先程挙げた大リーグでポジションが取られるかも知れない野手のうち、秋山・松永はドラフト外、新庄はドラフト五位の入団で、この3人が今年高校卒業だったらプロ入り出来たかどうか大変疑問。彼らのいないプロ野球は、今よりだいぶ面白くないものであることは間違いないし、それを現在行っているわけだから、この先のプロ野球の未来は明るいものではない、と感じるのは私だけではあるまい。大体私達は例えば松井のように鳴り物入りで入ってきたルーキーが期待にたがわぬ活躍をするのを見るのも好きだが、だれも注目してなかったような新人がぐんぐん頭角をあらわしポジションをとり、一流選手に育っていくのを見るのも同じように好きなのである。それを体現した阪神の亀山(ドラフト外入団)が、2年前のオールスターの投票であの王に迫る票を集めたのは記憶にも新しいところ。かれもまた、今年高校を卒業だったらプロ入りはなかった。 (この項つづく)

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