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1994年2月号
written by 来素果森

とりかえしのつかないFAと新ドラフト(1)

 周知の通り、ひどく見苦しいナベツネ(読売新聞社社長)のエゴではじまったドラフト改革及びFA制度元年は、逆に巨人の落日ぶりを天下に証明して終わりつつある。ドラフトにおいては、巨人が一番狙っていた全日本のエース・杉浦はプロ入り自体を拒否したから仕方ないものの、第二候補の関東学院大の河原(→横浜)、第三候補の青山学院大の小久保(→ダイエー)、第四候補のNTT四国の山部(→ヤクルト)に全て逃げられるというていたらく。特に河原には横浜以上の契約金、小久保にはダイエー以上の指名順位(ダイエーは二位、巨人は一位)を呈示しながら拒否されてしまい、落日ぶりを一層印象づけた。ドラフト当日見かねた横浜が、三位指名で競合していた東山高の岡島の指名権を巨人にゆずり、巨人のフロント首脳陣が横浜のテーブルに行って頭を下げる…といったあたりの一幕は喜劇そのもの。ドラフトの次の日の報知新聞の一面はなんとこの岡島で、ドラフト三位の選手が一面という前代未聞の紙面づくりになった。もちろんこれらの選手がプロ入りしてからどう働くかは未知数であるが、巨人にとって著しい目算違いであった事は否定しようがあるまい。ナベツネの血圧はオランダの堤防の決壊を、穴に手をつっこんでふせいだあの少年が受けた水圧よりもっと高いものになったといわれる。ほら見ろ、ドラフト改革は巨人が有利になる為じゃなかったろう、と見え見えの負け惜しみを言ったすぐ後で、球団代表らフロント首脳陣に懲罰的降格人事を科するあたりは脳軟化症ここに極まれりである。自分のゲス振りがどれだけ読売のイメージダウンに貢献してるか御存知ないのでしょうか。

 FA制度においても巨人が散々だったのはまた周知の事。12球団で唯一2人の選手が宣言し、打の主軸の駒田を失った。今年こそ某馬鹿コーチとの確執で大スランプだったとはいえ、過去に四回3割を記録した安定した成績の持ち主で長打力もあり守備も上手い(93年もゴールデングラブ賞受賞)。ここ5年のトータルで間違いなく野手で貢献ナンバーワンの彼がいなくなったのは痛い。年齢も31歳とまだ若かったし…。仮に落合が入るとしても(12月17日現在未定)駒田の穴は埋めきれないだろう。不世出の大打者落合もここ数年は年齢による衰えが目立ち、せまいナゴヤ球場以外では本塁打は出にくくなってるし、勝負どころ(得点圏)での打率はかなり低くなってるし、夏場以降はガクッと成績が落ちている。広いドームでタイムリー欠乏症でスタートダッシュに失敗すると立ち直れない(夏場以降のペナント正念場でのせり合いに弱い)巨人はなせ落合に固執するのだろう。不思議でならない。巨人のOB会で落合獲得に反対の声が圧倒的に高かったのも当然である。どう考えてもマイナスなのだから。

 もちろん本人はそんな事はおくびにも出さないが、落合自身が事の成り行きを一番心配してるのは間違いない。パリーグに戻ってDH…これがベストの道である事は間違いないのだから。巨人の熱烈アタックにもかかわらずなかなか正式に道が決まらないのは彼の逡巡をそのままあらわしている。落合のためにも巨人入りがつぶれる事を祈る。

 では巨人はどうすればよかったのか。結論から言うと、松永・石嶺の獲得に全力をあげるべきだった。三拍子揃った松永は長嶋監督のかかげる”スピード&チャージ”のテーマにぴったりだし、ガッツあふれる姿勢と若手に対する指導は、おとなしめのチームを活性化するにはもってこいだと思われる。また、あの広いグリーンスタジアムをホームグラウンドにしながら24本の本塁打を打った石嶺は、巨人と同じくタイムリー欠乏症に悩んだ西武の森監督が最後まで狙っていた事からもわかるように大変勝負強い、頼れる選手。落合獲りに7億使うんだったら、2人合わせてもその半分ですむ彼らの獲得に全力をあげるべきではなかったか。特に松永は、昨年(92年)阪神にトレードが決まった時に長嶋監督が”ウチが欲しかった”とくやんだ選手。FAを宣言した今回になぜ巨人があまり動かなかったのか疑問である。今となっては後の祭りだが。

 一方、投の主軸・槇原は引き留めにこそ成功したものの、大幅昇給+功労金・複数年契約・禁トレード条項など槇原の主張を全部飲まされ、土下座契約のような形になった。以前6月号のこの項で書いたナベツネの持論である”巨人のやり方に不満のある奴は辞めろ”(斉藤に対して)は、選手の移籍の自由が無い、契約拒否=引退であった時代の脅迫であった事がこれで証明された。なんともみっともない事である。これは予測の域を出ないが、現在比較的対外発言をつつしんでるように見えるエース・斉藤はFAの権利が発生したと同時に宣言するのではないか。一番巨人のやり方に腹を立てているのが彼である事は間違いないところであろうから。先行き不安な巨人軍投手陣である。

 今回のFA及び新ドラフト制度が、ナベツネの赤っ恥だけで終わったなら大笑いで済むのだが、プロ野球界全体に果てしなくダメージを与えたのが頭の痛いところ。ドラフト1・2位に対する契約金は予想通りうなぎ登りになったし、横浜の例を見るようにドラフト及びFA対策のお金づくりの為に少しでも衰えの見え出したベテランは金額に見合う働きがない、と判断されるとアッサリ首を斬られるような例が出て来た。弱肉強食はプロとして当然の事とはいえ、このような傾向は長い目でみてプロ野球界全体にとって決していい事とは思えない。以前にも書いた事だが、例えばFA制度のあるアメリカでもドラフト制度は堅持されており、デビュー以前の新人に莫大な金を払ったりはしていない。今年のドラフト1・2位の選手は軒並み1億円以上の契約金を支払われたが、過去の例でもわかるように彼らが確実に活躍する保証は何もない。0勝で終わる投手も、一度も打席に立つ事なく終わる野手も必ず出てくるだろう、それでも”見込み”で彼らに合計数億円払わねばならない。際限なく上がる相場によって。もちろん全ての選手が活躍すれば問題ないが、そんな事は絶対ない事は過去の歴史が証明している。その、ドブに捨てる金のために例えば横浜の高木豊がクビになるとしたらどこか間違っていないだろうか。契約金の歯止め、という点からもドラフト制度はやはり必要と思われる。最近は物価も比較的安定している。今年のドラフト1・2位の新人のほとんどが入団以来4年連続最多勝投手の野茂より高い契約金で入団してるのは明らかに異常以外のなにものでもない。彼らのうち誰が野茂を越えられるのだろう。

 実はもうひとつ大きな問題があるのだが、紙面が足りなくなってしまった。次号でその点をとりあげる。 (この項続く)

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