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2003年2月号
written by 相田智久

電波が君を呼んでいる。ザ・小倉優子ワールドだりんこ。

 文化放送で10月より始まった番組『小倉優子のRADIOトゥルーラブストーリー・うきうきりんこだぷう』は、色々な意味で冒険だと思う。基本的にはギャルゲー『トゥルー…』関連のアニラジ番組。通例、ゲームに出演の声優がDJを務める。スポンサーのエンターブレインが、テレビCMに小倉を起用した流れとは言え、この手の番組で声優系以外の人材が使われるのは稀である。

 似た例ではやはりゲーム系ラジオ『.hack綾子真澄のすみすみナイト』に、グラビアアイドルの長谷川恵美や大久保綾乃が起用されているが、コーナー・アシスタントであり、今回のようにメインの扱いではない。まさに抜擢という言葉が似つかわしい。

 さらに小倉のトークだ。彼女のシャベリは立て板にモチ(笑)。語尾を上げ『えっとぉ〜』を多用、まったり甘ったるいモノ。スピードも遅い。喋るのが商売の声優系と比較すれば、大変素人っぽいという話になってしまう。アイドル歌手全盛時代、ファンのニーズも高く、レコード会社がほとんど買い取る形で、アイドルの番組枠が存在していた頃と現在では話が違うのである。当然、告知中心の手堅い作りが支持され、遊びや冒険とは別のベクトルのプログラムが多い。しかも当番組、その代表格であるゲーム系なのだ。そこでの小倉カラー。これも今までの常識を外れている。

 そして彼女のキャラクターそのものも特異。所謂不思議少女系、ブリッ娘キャラだ。業界ではずっと空席になっていたポジションである。関係者もその事自体は良く分かっているのだが、このイスに座っても後が難しい為、そのままになっていた。同キャラは女性層から反発をくらうので、地上波テレビの世界でメジャーになるのは困難。女性客に嫌われれば、ゴールデンドラマのキャスティングにも不利だ。メジャー企業のCM(化粧品や菓子関連)も取りづらい。よってブリッ娘は商売にならない、というのが90年代からこっちの一般的な見方である。

 そんな中小倉は、幼児性を強く感じさせるルックス、『こりん星の話』(彼女の出身地だそうだ)を中心にした、空想世界をネタにした発言等、清純派の枠にくくれない強烈な個性を持つ。間口の狭さから、本来マニア向けのアイドルであり、CSやネットの優良コンテンツといったメディアがマッチする人だと思う。そういう人材が、ラジオとは言え、地上波の世界にピンで出てきた。この事態はショックであった。

 放送は彼女の濃さ全開、とまではいかないが、小倉ワールドが十分味わえる。貴重なプログラムと思う。この号の発売時、もし番組が続いていたら、一聴をお勧めしたい。

 次は今回紹介するアイテム。9月に発売された松浦亜弥の曲『The美学』を取り上げたい。

 隙の無さから「マシーン」「サイボーグ」とも称される松浦本人とそのプロジェクト。だが02年夏あたりから、若干の揺らぎが見える気がする。シャッフルユニットの『きょうりゅう音頭』は置くとしても、『Yeah!めっちゃホリディ』は、曲調・歌詞世界とも、オモシロ方面へ大きく寄せた作品だった。松浦が事務所の先輩、森高千里のノウハウを利用している事は、既に当欄で述べた。意表を突く表現や、歌詞になりにくい、庶民的な単語の使用が特徴だった森高作品。シリアスとオモシロ間の振幅が大きく、極北には『ハエ男』なんて楽曲もあった。それに比べれば『Yeah…』はまだ可愛い方とも言えよう。

 そして本作は一変、シリアスな作風だ。郷ひろみに代表される、チープ&ゴージャスなラテン系イケイケ水商売ポップス。『Yeah…』は考え方によっては、01年作『トロピカ〜ル恋して〜るの』発展系と取る事も出来るが、『The…』は明らかに異質。今までのイメージからは出てこない芸風で、ミスマッチを狙ったか、イメチェンかと思わせる。

 振り返れば『LOVE涙色』から『桃色片想い』に至る三部作が凄すぎたのかも知れない。この三部作は、80年代以後のアイドルポップスの影響を強く感じさせるもの。しかも下手に現代風にアレンジしたりせず、原典に近い型で発売された。松浦は水を得た魚の様に、高い完成度で表現。結果を出してしまった。若いファンには新鮮だったし、ベテランは「こんな楽曲が今時新曲で聴けるのか…」と驚かされた。

 以上の様に大変濃密な作品となった三曲。しかしこのテンションを保つのは困難でもある。『Yeah…』は、肩の力を抜く時間を、意識的に作ったのではないか。そうしなければ、ちょっと煮詰まった展開になっていただろう。

 さて改めて本作『The…』を聴いてみよう。前述の経緯を考えると、心機一転、再スタートの意味合いが見えてくる。そうであれば、勢いのある楽曲がいい。また、これまでと違うイメージで幅を広げていきたい、という送り手の希望に沿った作風である事も理解出来る。松浦は今回も高いポテンシャルを発揮、ともすれば安っぽさに流れがちな楽曲を、カッコ可愛い感触にキープ。ソツの無さを見せつけた。

 だが本作は松浦の力技で成立させた感がある。正直、彼女だからこなしたが、他の歌い手ではこうはいかなかったろう、ちょっと危ない橋であったとも思う。

 今後のソロリリースについてだが、筆者としては「三部作」の様な作風を望みたい。その手の楽曲を現在発売するには、強いバックの力が必要。勿論、技術に裏打ちされた歌唱力もいる。その二つを兼ね備えた存在が、今の松浦であると思うからだ。

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