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1997年10月号
written by 相田智久

「優しく接して下さい…」ってコントローラー投げるなって事? 

 バーチャルアイドルって一体何だろう。現実には存在しないアイドルを支持する。古くは89年に芳賀ゆいというアソビがあったし、昨年は伊達杏子DK-96が、ホリプロからデビュー。CD発売等の活動をした。97年現在、ゲーム・アニメキャラクターのグッズという形で「そこには居ない」アイドルの商品は既に成り立っている。特にゲームキャラ系統は御大『ときめきメモリアル』の藤崎詩織をはじめ百花繚乱の趣がある。

 ダテキョーはマニア層の喰い付きが悪いが(かと言って一般層の認知度も決して高くはない)ゲーム系との支持に差がつくポイントは、案外「接している時間の長短」という、かなりアナログな理由がモノを言っているのではないか。そう、ダテキョーとは文字通り一緒に遊べないのである。
 
 『ときメモ』に代表される恋愛シミュレーションゲームには、攻略…キャラと恋仲になる…のに手間暇かかる物などが多い。まして全キャラ攻略ともなると多大な時間を要する。費やした時間の分だけ親密度が増す、という程単純ではないが、そのゲーム、ひいてはキャラクターに慣れ親しんだのは確かだ。現代のように各商品間で大きな性能差が無い世界では、購買前に何か情報を得ているかが選択の動機に加わる。プレイした人間にとって、ゲームキャラ関連商品は(声優方面も含めて)良く知っている商品なのである。

 まして実在のアイドルでは望むべくもない、プレイヤー個人への好意的反応も、モニターの中から返してくれる。実在しないのに…といぶかるムキもあるだろうが、元々現実のアイドルとファンとの接触も何らかの媒体を通した間接的な型が中心だし、応援した所で結局報われない、という点では全くイコールなのだ。となると、個人的レベルでサービスが良いのは(多少、感覚の慣れは必要だが)現状ではゲームキャラの方である。

 前記のダテキョーはバーチャルアイドルなのに、これらのサービスが抜け落ちたままではないのか。それが今の現状を呼んだ一因に思えてしまう。

 さて今回取り上げるCDは『センチメンタル・グラフィティー 杉原真奈美』(発売NECアベニュー/販売日本コロムビア NACG-1001)ゲームキャラのCDである。声優は豊嶋真千子が担当。曲『思い出を止めたままで…』の他にミニドラマ等が収録されている。なお本CDはゲーム本編の発売前にリリースされた。雑誌での露出、TBS系ラジオ『センチメンタル・ナイト』で浸透を計ったとはいえ、ユーザーが彼女との時間を共有する前にこの商品は現れた。「そこに居ない」度数では、高い数値を叩き出しそうな一品であろう。

 曲はスローバラード。おとなしい女の子という設定から来たのだろうが、サビでは結構歌い上げるタイプの楽曲でもある。豊嶋の線の細い声質が、設定通りのか弱い感じを表現している。親しみ易いメロディ、弦とシンセの落ち着いたアレンジと聴き易い仕上がりだ。以前にも指摘したが、声優系CDには80年代アイドルポップスの香りを残した物が多い。それは、ニューミュージックのミュージシャンがアイドルに提供した作品に近く、20〜30代の人間にはスタンダードな「うた」に聴こえるモノである。これは音楽的嗜好において、それ程マニアックでない層の情緒に訴える部分が大きいから、と推測される。両者が遠い親戚関係だ、というのは割合重要だ。何故ならそれを求めるファンが、根っこの部分でどこか近い可能性を示唆しているからだ。

 ミニドラマは、プレイヤーとゲームキャラの出会いや過去のいきさつが、モノローグ形式で展開している。このパートは本職の声優の力が表れており、仲々完成度が高い。あとはこのセンチメンタルな世界に入って行けるか、ゲームでもないのに世界に入り込む自分を許容できるか、にかかって来るだろう。

 初心者には荷が重いかも知れないが、一線を越えてしまえば確かに別の世界はある。

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