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2006年7月号掲載
written by 桑原ナオミ

都心で地方気分@錦糸町

 中央区や江東区あたりを徘徊していると、やたらと目につくもの、それは”錦糸町駅前行き”の都バスである。錦糸町といわれて思いつくのは、せいぜい『楽天地ビル』ぐらいのものだというのに、なにゆえに東京都は人々を錦糸町へと向かわせるのだろうか。

 で、4月20日。そんな”東京都推奨”の街・錦糸町に東京ドーム約1.5個分という大型ショッピングモール『オリナス』がオープンしたことを、読者諸君はご存知であろうか。中央区住民の桑原、当然(?)至近距離に”錦糸町駅前行き”都バスの停留場があるわけで、5月某日、今まで一度も乗ったことがないそのバスに揺られて一路錦糸町へと向かったのである。

 終点の”錦糸町駅前”で下車すると、右斜め前方には件の『楽天地ビル』。館内の映画館では『鉄道員〈ぽっぽや〉』が上映中。駅前なのに2番館があるのね…。総武線のガード下を通って再開発著しい北口方面へ。思いのほか広々とした錦糸公園を通過すると、専門店が集まった〈モール〉、大型店舗を中心とした〈コア〉、シネマコンプレックス『TOHOシネマズ錦糸町』、オフィス棟〈タワー〉、高層マンション『Brillia Tower TOKYO』を有する『オリナス』に到着。ちなみに『オリナス』という名前の由来は(1)錦糸町という地名からの連想…錦糸が様々な模様を”織り成す”。(2)住居と出会いと新たなビジネスとショッピングの融合、という意味。(3)Organization of Lifestyle,New business,Amenity,Shoppingの頭文字から。…とのことだがどう考えても(3)は無理矢理力業でひねり出したとしか思えない感じである。イエローとブルーを基調にした建物は、アメリカ・メリーランド州に本社を持つRTKLインターナショナルリミテッドのデザインによるもの。日本では桑原溺愛の『ホテル・ザ・マンハッタン』やJR九州宮崎駅などを手掛けているらしいが、少なくとも『ホテル・ザ・マンハッタン』とは全く雰囲気が異なる。良い意味で個性の無い会社なのだろうか…。〈モール〉入り口には、金色の巨大な時計が。かつてこの地には明治時代より精工舎(現セイコーウォッチ)の工場があり、その歴史を残す意味で設置されたとのこと。にしてもデカいな…。

 1階はレディスファッション中心のフロア。入り口からすぐ左の〈ファッションプラザ〉(なんてベタな名前…)には、『エヴィス』からセレブ御用達の『トゥルーレリジョン』までジーンズが妙に充実している。ジーンズに関してはミーハー全開の桑原、吸い込まれるように『トゥルーレリジョン』の店内へ。『オリナス』のコンセプトは”Well-off(=豊かな、富裕な)Life Style”、メインターゲットは20代後半〜30代の女性を中心にした”三世代母娘”とのことだが、『ペッパーランチ』や『クレアーズ』、『コムサイズム』などが入っているショッピングモールで1本2万円〜4万円オーバーのジーンズを販売するお店が出店しているとは少々驚きである。

 2階は雑貨中心のフロア。フードライブラリー『Green DeLi』は量り売りのドライフードが多数。マンゴーやストロベリーといった定番からトマトやカニといった変わり種まで、その殆どを試食することができる。

 3階はメンズファッション中心のフロア。なのだが、なぜかその一角にフードコートが。子供用の小さな椅子やテーブルが設置されたエリアがあるものの、コート内のお店は『丸亀製麺』(讃岐うどん)、『豚郎』(豚丼)、『オジョリアン』(ビビンパ)とお子様向けとは言い難いものばかり。最近のガキは寿司屋でエンガワとかコハダとか頼むくらいだから、この程度で丁度良いのか?

 4階はシネコンと飲食店中心のフロア。今流行の自然食系ビュッフェ『食彩健美 野の葡萄』、卵料理専門店『ラケル』の新業態店『ホロン』など。

 地下1階は24時間営業のネットカフェと、ガンダムのカードゲームやスロット、競馬ゲームなどオトナ系が中心のゲームセンター。

 お隣の〈コア〉には、ベビー総合専門店『ベビーザラす』、家具&インテリア『島忠』、スーパー『東急ストア』などが入っている。

 アパレルに雑貨にシネコンに飲食店にスーパーに大型インテリアショップ…。広大な駐車場こそ無いものの、地方によくあるイオンやダイヤモンドシティなどど何ら変わらない印象である。都心にはこのテの商業施設が殆ど無いのである程度は重宝されるかもしれないが、地方の人が『オリナス』に来たら何の新鮮味も無くてちょっとガッカリするかも。

 が〈コア〉1階にある関東初だという『コムサストア』に一歩足を踏み入れた瞬間、桑原はある異変に気がついた。『コムサイズム』『モノコムサ』…、洋服や雑貨、食器などが並ぶ空間に濃厚に漂うニンニク・オリーブ・トマトのニオイ…。隣接する『カフェ コムサイズム』か?と思ったがタルトやムースなどスイーツのみ。ニオイをたどって店の奥へ進む。と。そこには店の外にはみ出す勢いでケーキやらサラダやらが大量に置かれた『ブッフェレストラン オッティモイタリア』が。ニンニク臭やらオリーブ臭やらを1日中放出するメシ屋(ニオイ付き)が洋服店や雑貨店と隣接しているということにまず驚かされるが、それ以上に桑原を驚愕させたのは、店頭の入店待ちの行列である。ちなみに現在午後5時40分。ランチには遅いしディナーには早すぎる。明らかにメシを食う時間帯ではない。なぜだ。

 で。その秘密を探るべく桑原も行列に加わり、通常より4〜5時間も早いディナーをとることに。値段を聞いて3たび驚愕。1人1554円!安っ!!しかも時間制限無し!!!午後6時前だというのに、店内は既に満席状態。何時から食っているんだこいつらは…。客層は、というとファミリーはそれほど多くなく、男性・女性グループやカップルの姿が目立つ。料理は前菜・スープ・サラダ・パスタ・ピッツア・カレー(男性客に大人気)・メインディッシュ・パン・デザートなど約40種類。オープンキッチンで活気があり、ディナー限定のタイムサービスとしてその場でカットして提供されるローストビーフはかなりの厚切り、料理の味もまずまず、そしてなによりその値段を考えれば超・良心的なお店だと思うが、平日午後6時前から並ぶほどかと言われると…。コムサストア全体に漂う濃厚なイタリアン臭が必要以上に食欲を刺激してしまうのか、はたまた錦糸町住民の夜が早いのか…。がっつり食べても謎は謎のままであった。

 と。コムサストア内に新たな行列を発見。東京初出店だという神戸生まれの大福屋『モチクリーム』。生クリームとフレーバーあんをおもちで包んだ新感覚の大福は全部で24種類。うう、悩む〜。店頭に書かれていた人気ランキング(1位:クリームショコラ、2位:宇治金時、3位:バレンタインナッツ、4位:桃クリーム、5位:桜)なども参考にしつつ16種類を購入。

 大福16個が入ったずっしりと重い袋を手にいそいそとバスロータリーへ。が、桑原が乗るはずだった”錦糸町駅前発・築地駅前行き”はわずか2分ほど前に最終のバスが出てしまった後であった。うう〜。

 ちなみに。

 最終バスを逃し仕方なく地下鉄を乗り継いで帰宅した桑原は、ふと冷静になって考えた。「大福16個、1人で食べるにはいくらなんでも多すぎる…」で。家に遊びに来た人に半強制的に食べさせたり無理矢理ゴハン替わりにすること3日間。何とか完食。個人的にはキャラメルプリン・クリームショコラ・スィートポテト・ミルクティ・バレンタインナッツ・クリームバナーヌが美味であった。しかし。いくら小ぶりとはいえ、1日に何個も食べるものではいな、大福は…。げふ。

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