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2001年11月号掲載
written by 桑原ナオミ

コメ・ウシ・タマネギは好きですか? 牛丼がデートごはんになる日@池袋

『MATSUYA』

MINI COLUMN おねえさんのひみつ「Shampoo」


 とうとう夏も終わっちまいましたね。読者諸君は21世紀最初の夏をいかに過ごされたのであろうか。桑原さんの夏はそれは地味なもんでございましたのよ。こんな稼業だから長期有給休暇なんて存在しないし、バカンスするカネも無し。夏休みらしいイベントといえば外務省がタダで年100日もお泊りになったというホテルニュー○ータニのプールと東京ディ○ニーランドに行ったくらい。ホテルのプールっていうと聞こえはいいけど、ここのプールは屋外にあってしかも夜だったので涼しいを通り越して超寒い!温水プールというのは名ばかりで限りなく水に近いぬるま湯だし、ドリンクはバカ高いし、だいたいプールの名前がバリとハワイで<バリハイ>って何!?このしょぼいプールのどこらへんがバリでハワイなんだよ、ホテルニューオー○ニ!!それから東京ディズ○ーランド、シー造る余裕があるなら汚くて暗くて夢のないトイレを何とかせい!あと公式ホテルのベイホテル○急!!メシがマズ過ぎるんじゃあ〜!!!ああ、来年の夏こそは幸せになりたい…。

 ところで読者諸君は牛丼はお好きかな?女性客やファミリー層の進出に加え値下げ競争が激化した”牛丼全面戦争”により牛丼を扱うほぼ全てのチェーンで牛丼は1杯280円〜290円になり、かつて骨太な”オトコのメシ”だった牛丼は国民的なファストフードとなった。ギュウが高級食材であった時代は終わり、そのあまりの盛況ぶりに「吉野家の紅生姜ケースの一番底には開店当時からの紅生姜が…」という都市伝説も消滅した。現在の牛丼を取り巻く状況に歯がゆさを感じている男性諸君も少なくないだろう。

 そんななか、女性をターゲットにした牛丼屋がオープンした。

 池袋東口。駅からほど近い場所にそれはある。グリーンとホワイトを基調にした外観からはそこがコメとウシとタマネギを供給する店だとはとても思えないが、看板には確かにこう描かれている。『MATSUYA』。ウシとカレーのハーモニーが絶妙(?)なカレギュウや朝のハムエッグ定食でお馴染みのあの『松屋』である。それがまあ、こんなに可愛らしくなっちゃって…。確かにオンナノコにとって『松屋』は『吉野家』以上に入りにくい店だという。蛍光灯を使用していないので(例外もアリ)店内が薄暗くみえる、椅子の間隔が狭い、カウンター越しに店員の顔があるので落ち着かない…などなど。桑原は『吉野家』のU字テーブルのほうがイヤかも。向かい合わせで座っているヤツとどんぶり越しに目が合ったりするんだもん。まあそんなワケで『松屋』は先陣切って女性向けの店舗をオープンさせたようなのだが…。

 店内に入ると、グリーンのポロシャツにカーキのキュロット(未確認。スカートかも)姿の茶髪のお嬢さんが時給890円(かどうかは知らないが)の営業スマイルで桑原を迎えてくれた。カウンターにはラミネート加工のメニュー表、ガラスケースには3種類のサラダ(コーン・ポテト・ハムとレタス)が陳列されている。ここってマジで『松屋』?モスバーガーじゃないの??

 メニュー表をみると、メインはビーフ&ライス(290円)、カレー&ライス(350円)、スティックチキンカツが付いたチキンカツカレー&ライス(430円)、そして一般の『松屋』には無いマーボー&ライス(380円)の4種類。力技のカタカナ表記は『吉野家U・S・A・』を思い出させますな。アレってどこいっちゃったの?そしてこれらのメインメニューにはセット(コーンサラダ&スープセット550円、コーンサラダ&ドリンクセット580円など)がある。ビーフ&ライスのスープセットを注文。スープはコーンポタージュスープとチキン&ベジタブル和風スープをチョイス。それにカフェ・ラテを追加。『松屋』でカフェ・ラテ…。スタバで納豆巻きが出てくるくらいの衝撃だなこれは。トレーにビーフ&ライスその他をのせてイートイン・スペースである2階へ。

 おお…。木目調の内装、天窓の付いた明るい室内、客は9割が女性。どこをどう見ても”カフェ”である。彼女たちが牛丼を食べていることをのぞけば、だが。2人用のテーブル席が中心の全39席。平日の午前ということもありかなり空いている。桑原は天窓の下のカウンター席に座った。眼下には(というほど高くはないんだけど)グリーン大通りが見える。やはりこの店の存在は気になるらしく、興味深げに店内をのぞきこむ女子高生やカップル、リーマンの姿も。

 ビーフ&ライスは一般的な牛丼とは違い、ご飯と具が別々の容器に入っている。そして食べる時にご飯の上に具をかけるのだ。ちなみに値段は『松屋』の牛丼と同じ290円だが、ご飯の量は60グラム減の200グラムとやや少なめ。味は多分同じ…だと思う。しかし先割れスプーンで食べるのはいただけない。これだと最後の一粒が取れないのよね〜。ビーフ&ライスの合間にカフェ・ラテをひとくち。うえっ、まっずぅ〜。この組み合わせは最高にキケンだわ。そしてかなり気になっていたチキン&ベジタブル和風スープ。醤油ベースの薄味スープを期待していたのだが…。げっ。これって味噌汁!?なぁにが和風スープじゃ!せめてミソスープって書け!!ちなみにベジタブルとは人参とゴボウと大根のことであった。サラダは可も無く不可も無く。でもこれだけ食べれば女子的にはお腹いっぱい、なんじゃないかな。ふと周囲を見渡すと、いつのまにか店内はほぼ満席に。「やっぱり少ないな」とこぼすリーマン2人組、制服姿のOL、10代とおぼしきカップル、カプチーノとサラダだけの女性(なぜここに来る?)…。

 牛丼が”野郎メシ”から”デートごはん”になる日はもうすぐそこまで来ている。否、もう既に来ているのかもしれない。しっかりコメのメシを食べるのはいいことだ。

 でも。どこか納得できないものが残るのは、桑原だけ…?

MINI COLUMN

おねえさんのひみつ。

キレイなおねえさんは忍び難きを忍び耐え難きを耐える

 オンナが髪を切ったり染めたりパーマをかけたりするのに一体幾らくらいのカネがかかるのか、貴殿はご存知であろうか。カットのみで4000円〜7000円、パーマは6000円〜11000円…。そこにトリートメントやらマニキュアやら指名料やらが加われば料金は天井知らず。290円でコメ+ウシ+タマネギが食べられることを考えると、かなり高額なサービス商品であることがわかる。しかも一度ハサミを入れられれば後は美容師の腕次第、たとえどんなとんでもない髪型にされても料金はキッチリと請求される。ヘアスタイルを変える、という行為はいってみればカラダをはったギャンブルみたいなものなのだ。

 そして今、おねえさんがたを”プチ・ギャンブル”へと誘うある美容院が、日本中に増殖しつつある。

 『Shampoo』ー。『TAYA』『Bumble and bumble N.Y.』『クレージュ』『Capellipunto N.Y.』など数々のサロンを経営する田谷グループが展開する美容院である。予約も指名もできないが、カット1800円・パーマ3900円・カラー4900円という徹底した低価格戦略が当たり、各地で行列をつくるほどの人気店にまでのし上がった。

 桑原は同じ田谷グループである『Bumble and bumble N.Y.』銀座店に行っていたのだが、ある『Bumble〜』の入っているビルの1階に『Shampoo』がオープンした。あまりの安さに驚きはしたものの、完全予約制がフツーだと思っていた桑原にとって炎天下だろうが雨だろうが雪だろうが店の外の路上で延々待たされるサロンなんて問題外。店の前を通る度に「アラアラ、貧乏人が行列してるわ〜」と思いっきり”見下し”の視線を向けていた。ところが。『Bumble〜』にて「今の仕事を辞めてフリーターになりたい」とこぼすシャンプーマン(ただひたすら客の髪を洗うだけの人。美容師の最下層)の若僧に会社という組織に属さずに生きていくことがどんなにシンドイかということを顔にかけられたタオル越しに言い聞かせていた時、何と階下の『Shampoo』が同系列店であること、更にシャンプーリンスなどをはじめとする備品もほぼ同じものを使用し、時に『Bumble〜』の美容師が『Shampoo』にヘルプに行っていることまでもが判明したのだ。『Bumble〜』の美容師さんは「ウチの社長は何考えてんだか…」と半ばあきれ気味だったが、桑原はその瞬間、ある決意をしていた。「今度からは『Shampoo』だ!」

 で、1ヵ月後の日曜日。桑原は『Shampoo』銀座店にいた。まだお昼前だというのに既に店の前には20人程が列をつくっている。客層は実に幅広いが、やはり場所柄かコギレイなおねえさんが多い。それ以上手を加える必要はないのでは?というくらいお美しい髪形のおねえさん(今すぐ入れ替わりたい)、休日だってのに会社の同僚と来ている仲良しOLのおねえさんがた(うざい)、シャネルのバッグを小脇にかかえたおねえさま(帰れ!)…。休日の銀座は歩行者天国になっていることもあり、通りすがりの人々が物珍しげな視線を容赦なく向けてくる。つい先日までこの行列を小馬鹿にしていただけに、桑原の心中は複雑だ。店内のカウンターでカット・パーマ・カラーと施術別に色分けされたカードを受け取り、列に加わる。噂では2時間は待たされるとのこと。道のりは長い。しかし桑原の準備は万全だ。突然の雨に備えて折りたたみ傘、水分補給にペットボトル、暇つぶし用の本(通信販売のカタログ)…。

 そしてただひたすら待った。カタログを隅から隅まで読み、メールを打ちまくり、空に浮かぶ雲を眺め、後ろに並んでいた香港人(男)と日本人(女)のカップルの英語5:広東語4:日本語1のハイブリット・トークを何とかして解読しようと耳をそばだて(ちなみに彼女は店内で「カレには英語で対応して」と無茶な要求をし美容師たちを困惑させていた)、隣接した福家書店でグラビアアイドル写真集発売記念サイン・握手会に並ぶオタどもと無言でさげすみ合い…。で。どれくらい待ったと思います?3時間半ですぜ。なんて忍耐強いんだ、おねえさんがたは!担当の美容師は超タメ口だし途中で放置されるし、半日ツブす覚悟と気力と体力のない人はムリ、って感じだけど確かに備品は『Bumble〜』と殆ど同じだったしこの値段で機械ではなく手でシャンプーしてもらえるのはお得。肝心の仕上がりは…というと、今回はカラーだったんだけど、まあまあかな。「どこのサロンでやったの?」より「どこの(メーカーのカラー剤)使ってるの?」って聞かれることのほうが多いのがちょっと気になるけど…。

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